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彼の言葉に悪意があるようには見えなかった。当然のようにそう思っていて、目の前にいる僕は彼の記憶の中の僕とは別人であるみたいな、錯覚をしているのだと思う。
妙だとか、趣味の悪いだとかは聞きなれていたけれどこんな場所に来てまでそんなことを言われるとはとすこし頭がくらりと揺れた。彼はまだ、続ける。
「友人が君のデザインした家を購入していたが、どうだろうか、近代的を追い詰めすぎて部屋が広くなりすぎている。彼が求めていたのは美術館ではなく、家だ。だから…」
何もわかってない、と僕は失望した。僕が建築図を描き続ける理由は家を買う人間のためでも、そこに訪れる人間のためでもなくて僕とお父さんがいつかその場所に暮らすためなのに、上から目線でまた評価を受けている。つまらない、なにも、わかっちゃいないのに。
「だから、なに」
僕の言葉に彼の黄色い瞳がぐるりと回った気がした。決して崩れない無表情なその口がまた開く。
「君には、才能が」
「お茶が入ったわよ！」
場に似つかない陽気な声に満たされる。かちゃかちゃとヴィオレッタの動く音、それと、陶器のぶつかる音。彼女はアルヴァがいることに驚きカップが足りないと嘆いた。
「私はもう部屋に行かせてもらう」
僕が彼のことを睨みつけると、彼は少し口角を上げて、でも、と続けた。
「今度は君の職業なぞ関係なしにお茶を楽しもう。もし君に才能がなかったとしてもそれこそが才能になり得る」
嫌味ったらしいと僕は手が震えた。怒りか、緊張か。よくよく考えれば僕は元来社交性がそう高くない。仕事の話をする時はどうにかこうにか、もう慣れたけれどこれはそんなもんじゃないから、やっぱり緊張するんだろう。
「ありがとう、ございます…ヴィオレッタ」
「ここが気に入ってくれたら嬉しいわ。」
彼女と試合で当たりたくないなとじんわりと感じた。濃い目に出されたアッサムにミルクを入れるとまろやかなその茶葉の甘みが伝たわる。僕が彼女に紅茶を入れるのがうまいと褒めると、彼女は頬を赤く染めてそんなこと。と肩(肩？ちょっと、僕にはカラクリがよくわからないが)をすくめたので見た目が恐ろしかったとしてもそれだけで判断してやるのは申し訳ないな、なんて柄にもなく思ってしまった。
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作者名：ちーうし | 作成日時：2024年1月22日 0時
