ぬくもり。【灰谷蘭】

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「…何、泣いてんの。」









彼に言われて、初めて、
自分が涙を流している事に気付く。

悲しい時。苦しい時。痛い時。寂しい時。
ずっとずっと…泣く事、無かったのに。

…今は、凄く嬉しいのに。可笑しい。









「あー…悪かった。」

「何が…？」


「オマエが作った飯、残して。」

「…え？」


「寂しい思いさせた事も。竜胆に聞いた。」









額と額がくっ付いて、
バツの悪そうな顔が良く見えた。

…違う。

ご飯、残した事に拗ねたのも、寂しかったのも、本当だけど。多分、泣いている理由は違う。









「ありがと〜…。」









私って、本当に言葉足らずだ。

勝手に心配して、勝手に避けて、ごめんなさい。
兄妹揃って迷惑掛けて…ごめんなさい。

私の為に、兄に会って…殴ってくれてありがとう。
大事なモンって言ってくれてありがとう。


最後の五文字しか言葉に出していない。ケド。









「どーいたしまして。」









何故か、彼には全部伝わっている気がした。









…あ。見付けた。…温もりの、正体。

確かめるように、彼を力いっぱい抱き締めて。









…確信、した。









彼の手。服。言葉。煙草。…等。

いつも、彼の傍には温もりがあって。
いつも、温もりがある所に彼が居た。

…彼自身が、温かかったって…。
どうして気付かなかったんだろう。









「今度さ〜。夏祭り、一緒に行こ。」

「…うん。お祭り、好き。」









帰り道。繋いだ手は、出会った日より。

…もっともっと、温かかった。









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