page5 ページ6
舞台の片付けはあっという間に終わり。次に案内されたのは寮だった。なんだか豪邸みたいで凄いなーと思った。いづみ先輩がこんな大きな劇団の監督なんて、私とは大違いだな。そんなことを思ったのは、乾杯を済ませてそれぞれ楽しく談笑していた時だった。李奈さんは至さんと仲良くお話している様だし、いづみ先輩も忙しそう。どうしようかな。
「Aちゃん、だっけ?」
「あ!はい!ええっと、伏見さん」
「臣でいいよ。堅苦しいし、みんなそう呼んでるから」
「臣、さん」
隣に座って話しかけてくれたのは伏見さん否、臣さんだった。衣装から着替えてもなんだか雰囲気のある人だ。デューイの役とは違って、すごい温厚そう。
「Aちゃんは、演劇が好きなのか?」
「いや、今日が初めてで...」
「そうか。気に入ってもらえたかな?」
その質問に私は勢いよく頷いた。特にデューイのシーンはドキドキしたと伝えると、嬉しそうにしてくれる臣さん。素敵な人だな。
「ちょっとおみみ!抜け駆け!?」
「え?いや、そんなつもりは...」
「Aちゃん!LIMEやってる?俺と交換しない?」
「ふぇっ...あのっ...」
私は男の人が一定距離内に入ってくるのが苦手だ。この人はその域を超えていて、近すぎる。というか既にくっついていると言った方がいいのだろうか。
「一成くん!!Aは近距離恐怖症なの!離れて〜!」
「え!そうだったの!?マジごめん〜」
「い、いえ。大丈夫です...」
一成くんと呼ばれた人は、真剣に謝ってくれた。その姿にこちらまで申し訳なくなる。でも、いづみ先輩のおかげで助かった。
「近距離恐怖症...大丈夫か?」
「あ、はい。このくらいなら」
「そうか。それなら良かった」
臣さんは少しだけ距離を開けてくれている。そして優しく笑って私を心配してくれた。この人なら私のこと、分かってくれるかもしれない...。ってなんてこと思ってるんだろう。今日出会ったばかりの人なのに。
65人がお気に入り
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名:かりん | 作成日時:2018年5月8日 14時