Music 11th ページ13
あ、そうそう。思い出したように立ち上がって、ゆき姉が付け加えるように言う。
「まだ、やるとは決めてないから」
…さっきまで、入る流れだったのに…。
「一応今日、話を聞いてから入るつもり。…だから、落ち込まないで」
おもむろに頭の上に置かれた手は、とても暖かくて…。心地がよかった。
「…うん」
隣のカズ兄はゆき姉とは対照的に軽ろやかにOKをした。
「オレとAはオーケーっすよ。面白そーだし。つづるんよろー」
「…私スカウト枠じゃないんだけど」
口を尖らせ文句を言う。…文句というか訂正?
「まぁまぁ」
私をなだめたカズ兄は、つづる兄をいじりに行った。
「幸くんも試しにやってみない?」
いづ姉は若干呆れたような表情を浮かべると、ゆき姉に向き直る。
話を振られたゆき姉は、カズ兄とは違った軽い答えを出す。
「んー。でも、別に役者に興味があるかっていうと、そうでもないし」
「幸くんの作る衣装は、やっぱり幸くんが一番似合うと思う。舞台に立ったら、きっと映えるよ」
「あー、確かに。そこは気になるんだよね」
いづ姉…いや、カントクさんは、ゆき姉の興味を引く方法をわかっていらっしゃるご様子で…!
「作ってる時も、実際舞台に立って動いたらどうなるかって、想像しにくいところがあるし…」
と、ゆき姉が迷っているところで鶴の一声(つづるさまの一声)が。
「衣装係兼役者でいいんじゃね。勉強になるよ」
「んー。じゃあ、やってみようかな」
「やった…!」
歓喜のあまり、声に出してしまうと、全員の視線が集まった。
「「ーーっ」」
「?」
その場にいるほぼ全員が顔を抑えて悶えてたので、どうしたのかなと思っていると、ゆき姉のリボンが目の前にあって、なにか暖かいものに包まれていた。
「…あれ…?」
耳元で聞こえてくるのは、ゆき姉の中性的な声。
「あーもー。ほんっとAかわいい」
「? ゆき姉の方が可愛いよ? ありがと?」
頭にいっぱい疑問符を浮かべ、何故この状況になったのか後で聞いてみると、やったと言った時に、顔がすごく明るかったらしい。自覚はない。
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