06話 ページ8
「あんた、男が好きなのか」
墨を見て驚いたのも束の間。すぐに平静を取り戻し、純粋な疑問を口にする。
そうだよと素直に頷く。薄い胸に手を当て、やはり興奮している鼓動を感じ取る。
「高校の時かな。友だちをいやらしー目で見て、興奮することが多くなって」
瞼の裏に焼き付いている、男が好きだと告白して嫌悪の表情を浮かべる友だちが。
にやにやと嗤い、襲いかかったくそ野郎もいた。なら、気持ち悪いと拒絶された方がましに思えて。
あの頃は子供らしく傷ついて、でもすぐに立ち直った。開き直った、という方が正しいか。
「自覚してからは誰でもいいから、男で抜くことが増えたよ。たまにお誘いしたりね」
「相手は誘惑されてくれたのか?」
「よくわかんないけど、ノンケでもイケるみたい。……と、昔話はもういいや。コッチ」
秀一の腕を引っ張り、ベッドへ誘導する。彼はされるがままに俺の腕を振り払わない。
何をしてもポーカーフェイスが崩れない。今から男を抱くというのに。
さすがにその精神力には頭が下がる、到底できることではないだろうし。
ベッドに上がり、向かい合わせに座る。
そこで、彼の視線が俺の体に向いていることに気づく。
まあ、正しくは身体に彫られた墨だが。
「墨なんてよく見てるだろ?」
首をかしげて、視線の意図を探る。そうだが、と呟くと彼は少し間を空けて、
「今まで目にしてきた中でもあんたのは凄くキレイだ」
などと言う。
無愛想で、ハッキリと物事を口にするやつが、そんな小綺麗なお世辞を言えるとは。
眉尻を下げ、柔らかい微笑を浮かべる。出逢ってから初めて見る、温和な眼をした。
「意味もなく彫ったコレがあんたの目を釘付けにするとはね。先代に感謝しないと」
「あんたじゃなく、先代が……」
「名前、呼んでよ。けっこー気に入ってるんだから、この名前。付けたのもその先代だけど」
「……親がいないのか、A」
決して盛り上がらない会話の中で呼ぶ、自分の名前。
どこか憐れむような、痛々しい眼差しに嫌悪を抱く。――のに、胸が締め付けられた。
秀一の首に腕を回して、顔を近づける。
大胆な行動に美しい目が見開かれ、
「―――……ちょっとでもいいから、黙って」
その色を最後に目を閉じ、唇を重ねる。
秀一の唇は乾燥していて痛みを感じる。少しでも和らげようと唇を舐め、元の感触を味わう。
今でも同情されたり、可哀想と思われた。だけどどうして……感じたことのない感覚に戸惑うばかりだ。
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