27話 ページ29
「……なんでFBIいんの?」
FBIはアメリカの警察だ。
それがどうして日本にいるのか、かなが外国に行っているとは考えにくいし。
『棚倉順のことは覚えてますよね』
「……あ、もしかしてそんときの」
『FBI。つまり、棚倉の時と同じやつです』
推理を先読みして言葉を繋げる。なるほどねぇと呟き、煙を吐いた。
窓から出ていく煙を目線が辿り、空を見上げる。建物ばかり並んでいるから少ししか見えないが。
棚倉の時遭遇したFBI。
つまり、かなが喧嘩してんのはあいつのお仲間。
「――」
瞼の裏に描かれていく、長髪の男。こちらに背を向け、振り向こうとしたところで声を発した。
「なんでFBIと?」
『連絡が来たんです。連絡先は交換してないので、ハッカーでも使ったんでしょう』
「フーン」
『…………赤井秀一について、聞きたいことがあると』
重々しく、その名を出す。喧嘩相手のことを言いたくなかったのは、そういうことだろう。
言ってしまえば、内容まで話さないとならなくなる。だから、言わなかった。
気だるげに掠れた声が言葉を紡ぐ。
「なんで秀一のことFBIが聞くわけ?あいつ今、センニューソウサチューなんでしょ」
そこで言葉が、途切れる。少しして意を決したような、深い溜息が聴こえた。
『その赤井ですが、どうやらミスったようです』
「潜入捜査でミスるって致命傷だ、ろ……」
小馬鹿にしたように言って、途中言葉を失くす。
潜入捜査は命懸けのミッションだ。バレたらおしまいで、怪しまれてもおしまい。
だからミスは許されない。
ミスは、致命傷。
『来葉峠で、赤井秀一は組織のメンバーに頭を撃たれ、殺されました――』
かなの重く、沈んだ声が耳に焼き付いて何度も言葉を繰り返す。
ミスは致命傷だった。だが、あいつはミスをするような間抜けじゃない。
などと、胸を張って言えるほど長く過ごしていない。
『それを真実なのか調べるべく、赤井の仲間がかつて交流のあった俺に接触してきたんです』
そうか。
かなが喧嘩をした理由は、それか。
秀一が死んだ事実を知って、連中みてぇに信じられないと激情して、先に手を出した。
喧嘩の理由は、俺なんだろう。かな。どうして言ってくれないんだ。
「サツに手ぇ出したのはまずかったな。とりあえず、帰ってこい。俺も今帰ってるから」
『……Aさん』
「待ってるから、帰ってこいよ。な?」
俺のこの、胸を痛くする感覚。コレをおまえは知ってるから、喧嘩したのか。
おまえこそ俺に教えてくれ。
俺は、秀一を……―――
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