19話 ページ21
「明るい時に出かけんの、久々だな」
あっちー、とネクタイを緩める。ガードレールに体を預け、垂れる汗を拭った。
日の出ている時間帯は基本部屋に閉じこもっていることが多く、憎たらしい暑さに顔をしかめる。
袖を捲り、腕時計を見下ろす。そろそろ約束の時間だなと呟く。
「別に話すだけなんだから、建物の中でもいいだろ……」
「――お兄さん、誰か待ってるの?」
「ん?」
足元から聴こえた声に目線を落とし、愛想笑いを浮かべた。
そこにいたのは、自分の膝丈ほどしかない身長の小学生くらいの男の子だ。
「そうだよ、おま……君は?」
レンズの奥の大きな瞳を見つめ、尋ねる。
「江戸川コナンだよ。お兄さんは?」
「珍しいな……天羽でいいよ。コナンって呼んでいい?」
「うん、いいよ!」
と、なぜかたまたま出逢った少年と知り合い、名前を名乗ってしまう。
そもそもどうして声をかけたのか。今の子供は大人に平気で声をかけるようなものなのか。
俺の時代は、大人を見たら真っ先に逃げ場を確保しろ、っていう教えだったが。
まあ、教えてくれたのは親じゃなくて先代なんだけど。
物思いに耽っていた俺にねえねえ、と声が掛かる。少し反応が遅れて、首を傾げる。
「天羽さんは、怖い人?」
その目が見ているのは、捲られて露になった腕だ。
美しい銀色の翼の墨が彫られており、誰が見てもただ者ではないことは明らかだった。
それに薄く微笑んで、小さい頭を撫でる。
「もしかしたら、コナンみたいな子供を食べちゃうフクロウかも知れないよ」
「……天羽さんは、不思議だね」
素直な子供の言葉を肯定する。不思議、そんなこと何度も言われてきている。
すると遠くから、コナンくーんと呼ぶ声がする。
やはりその声も幼く、彼と友達なのだと理解した。
「ほら、早く行きな。天羽さんの待ってる人もそろそろ来るし」
「……うん。じゃあねっ」
気になる間を感じたものの、元気よく走り出す。その小さな背中に手を振り、
「――楽しくガキとお喋りとは、ずいぶん優しくなったんだな」
「……少なくとも、待ち合わせに遅れるやつを殺さない程度にはね」
背後からする、低く凍えた声。それだけで待ち人が来たとわかった。
ショーウインドーに映る、黒いポルシェ。助手席に座っている男と間接的に目を合わせる。
黒いハットに分厚めのコート。
黒ずくめの服装に加え、長い銀髪と容姿が目立つ男。
「相変わらず冷たい目ぇしてんのな、ジン」
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