01話 ページ3
「目くじら立ててどうしたの?オネーサン」
「あんまりナメると痛い目みるわよ」
にこりと微笑んで、腰に下げた手錠を見せつける。降参という風に手を軽く上げた。
「それで、どーしたの?」
壁にもたれ掛かり、部屋の中を見せないようにする。自然に見えたのか、それについて追求しなかった。
「今世間で話題になっている事件の犯人とおぼしき男が、ここに入ったとの情報を得たの」
「フーン」
――世間では、女ばかり殺していく事件が起きていた。
犯人は日本人で、犯罪歴はなし。
曰く、穏やかな善人だとか。
それが突然、次々と女を殺した。殺して、警察から逃げて、偶然此所に転がり込んだ。
シマを荒らしたのはこいつだとすぐに勘づいた。だから、あえて匿っていた。
あとで目撃者引っ捕らえて、お仕置きしなくちゃねぇ。それは……かなに任せるか。
「確かめさせてくれるわよね?今は女だけ殺してるけど、あなただって例外じゃないかもしれない」
強く、真っ直ぐな眼。空の色をしているその眼差しは、光のように輝いている。
本当に救いたいと望んで、警察になったんだろう。――稀に見ない、綺麗なひとだ。
「それは別にいいよ。でも、犯人は日本人だろ?事件も日本で。なのに、なんでFBIなのさ」
「それ、あなたに言う必要あるの?」
「招かれざる客になりたい?」
扉を少しだけ閉めて薄く微笑む。すると焦ったような顔をして、溜息を吐いた。
「日本に旅行に来ていた、FBI捜査官の娘を一人殺したのよ。だから……他国で好き勝手に動いてるってワケ」
暇ができたとき、外国のドラマを観る。もちろんハリウッド映画も観る。
警察が舞台となるストーリーはいつだって、同じ警察の仲が悪いシーンがある。
特に多いのは、日本と外国。
――国という弊害があると、ややこしいのが鉄板だ。
「大変だねぇ、オネーサン」
「じゃあ、中に入らせてもらうわよ」
「どーぞ。……少し、長話したかな」
チェーンを外して扉を開け、FBIを招く。当然のように土足で部屋に上がると……
「―――ゆい、ゆ、い……?」
安息の眠りから醒めた殺人鬼が、ゆいという名の少女を探し求めて、起き上がる。
「FBIよ!両手を頭の後ろに回して、ゆっくり膝をついて!」
「なんで、警察が……ゆい、どこだ?ゆい!」
銃を強く握り締め、警戒体制をとる。自分に向けられる幾つかの殺気に、男は困惑を隠せない。
……ちょうどいい。胸の内の火種に発火させてもらうとするか。
「――棚倉順クン、こいつらみーんな敵だ。殺しな」
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