【忍たま夢】きり丸の為に死ねるなら悔いはない2

エピローグ/勘右衛門視点 ページ43

いっちゃんはそれはもう盛大に泣き喚いた。
普段の様子からは信じられない幼児返りに、俺は驚いたけれど、彼女なりに色々堪えてきたんだろうな、と思うと、自然とよく頑張ったね、と褒めてあげたい気持ちになった。

後日、正気に戻ったいっちゃんが土下座するのを全力で止めた。「この度は醜態を晒してしまい誠に申し訳ございませんでした」「いいからいいから立って！」

団子屋の夫婦とも仲直りしたようだった。以前より少し打ち解けたような話し方をしているのを聞いた。

きり丸とは、あれ以来ずっと文通しているようだ。
ぎゃん泣きしていたいっちゃんの手をずっと離さずに、痛いぐらい握りしめ合っていた。いっちゃんが素直だったら、もっとスムーズに再会を喜ぶ未来もあっただろう。
実はあの時、「きり丸に会えてうれしい」「きり丸が生きててくれてよかった」と何度も言われたきり丸は、照れ顔と泣き顔をブレンドしたような顔していた。
泣いてもいいのに、とは思ったが、きり丸は泣かなかった。
男の子の意地だね。
青春だなあ、とほっこりしながら俺と鉢屋は2人を見つめている。

「そういえばさ」
「はい？」

俺はといえば、以前のように団子屋に通い詰め、いっちゃんとだらだらおしゃべりする関係を続けていた。時折、手紙をきり丸に渡してほしいと頼まれた。
時折、きり丸がバイト帰りに団子屋に寄って、2人で嬉しそうに話し込んでいるのを見る。

「俺、なんだかんだいっちゃんって呼び続けてるけど、Aって呼んだ方がいい？」
「どちらでも、お好きな方でいいですよ。おっちゃんとおばちゃんは相変わらず『お市』って呼びますし」
「でも、偽名だったんでしょ？」
「そうですよ。でも、市として死に損ないながらも生きてきた自分も大事にしたいんです」

いっちゃんはふわり、と幸せそうに笑った。
俺はそんないっちゃんの笑顔を見るのが新鮮で、俺が見たかった表情はこれなんだと嬉しくなった。

「……それに、きり丸がAって呼んでくれるから、別にいいんです」

なるほど。
はにかんだいっちゃんの顔は少し赤い。
ははーん。

「じゃあ俺は変わらずいっちゃんって呼ぼーっと」

好きな人にだけ呼ばれる名前、っていうのは特別感があっていいはずだ。
俺はきり丸の特別を奪わないように、これまでの呼び方を続けることにした。

空は青く、明るい。
2人とも辛い経験を乗り越えてきた。だからこそ、普通の子にとっての普通の幸せを感じ取ってほしい。そう切に願うのだ。

エピローグ→←かえりみち3

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す