【忍たま夢】きり丸の為に死ねるなら悔いはない2

彼の気持ち ページ32

城主視点

彼女は「旅に出る」とそう言った。

行く宛がある、と彼女は言っていた。
これが「外つ国に行きたい」とそういうものであれば斡旋してあげただろうし、「全国行脚したい」と言うのなら護衛の1人や2人付けてあげた。
そのぐらい、彼女には計り知れない恩がある。
だから、彼女には尋ねたのだ。どこへ向かうのか、と。

そしたら彼女はなんてことないように「あの世ですかね」なんて笑った。

僕は絶句した。
幼い少女に「あの世に行きたい」と言わせてしまったこの世の悪辣さと、そんな彼女を引き留めるしかできない僕の不甲斐なさが恨めしい。

しかし、あの世に行きたいと言った割に、ここにいる間は彼女はくるくると良く働き、よく笑う、可愛げのある女の子だった。
だから、彼女にとって傷が癒えるまで、ここにいればいいと本気で思っていた。

でも、彼女は「旅に出たい」とそう言ったのだ。
何度引き留めても、どうしても頷かなかった。

……君は、そんなに死にたいのか。

命の恩人で、かつ知恵の宝庫たる彼女を易々と死なせては、僕は先祖に顔向け出来ない。後世でも後ろ指さされるだろうな。
もし死んでしまったらそれは世界の損失だ。
早世の天才などと言われてしまうだろう。
けれど、早世なんて言わせたくない。これは僕のわがままだけれど、彼女を助けてあげたい。

彼女を、死なせたくない。
そのためなら、僕は恨まれ役でも悪役でもいい。

だから僕は彼女を軟禁した。
地下牢に入れて、逃げられないように。そして刃物の類は絶対近づけないように。
彼女に渡す物は紙と筆。食事は木製の食器を使うように厳命した。

過剰だとは自分でも分かっている。
しかし、彼女はきっと、逃げ出したら最後、死んでしまうのだ。
年若い少女が1人で旅をするならば、命を落とすのに理由は要らない。
不運だった、危機管理が足りなかった。
それだけで簡単に消えてしまう。

僕は、幼い彼女を喪うことが、こんなにも怖い。

だから。


「君を、死なせやしない」

いつか、君が生きたいと、前向きになれるまで。
なんなら、僕を恨んでもいい。それが原動力になればいい。『何がなんでも好きに生きてやる！』と思ってくれるまで。
僕は心を殺して悪役になろう。

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