【文豪ストレイドッグス】シャチはイルカを食べるのだ

イルカは半分だけ眠った ページ28

なんやかんや色々手引きしてもらって、私はポートマフィアを『黒の時代』開始前に抜ける事に成功した。
首領もまだ事が起こってないからか、随分簡単に見逃してくれた。
でも、安吾はミミックの事を知ってるはず。手引きしたのは彼なのだから、もう既に海外で事件を起こしている事を知らない筈がない。
それらの始末に、織田作の異能が必須であることも知っている筈だ。

「…」
何も語らない安吾の横顔を見る。
仕事一辺倒の真面目で硬い、異能特務課の一員。
仕事を完遂する為には、友(織田作)を犠牲にする事もある、冷酷な人間。

だが、織田作を戦禍に巻き込むのに躊躇いがあった事を、私は知っている。
スパイとしてマフィアに入り、見事謀反(裏切り)をこなしてみせる中で、私達との出会いはイレギュラーそのものだった筈だ。
だが、そのイレギュラーが安吾にとって安息の場になっていた。

安息の場を壊す事に、太宰より、忌避感を抱いていた。
織田作も嫌がってはいたが、なんだかんだ大人だ。
いずれはこの不安定な関係が終わる、と察していたと私は思う。

安吾は誰より人間味がある。
…と、私は思っている。

「安吾、ありがとう」
「礼を言われる程の事ではありません」
「それからすまない」
「謝られる事など一つもありません」
織田作を再び殺戮の地に巻き込もうとしていた事に対する罪滅ぼしのつもり、だろうか。
「私達が、立場を無視して語れるあの場所は、私にとっても掛け替えのないものだった」
「…」
「今も、大切だ。だから、それを壊してしまって、すまないと思って」
「要らないです、その謝罪なら。結構です」
キッパリと拒絶された。
「貴方がポートマフィアを抜けたからって、あの酒場が潰れる訳じゃありません。あの酒場に立ち寄ってはいけない道理もありません。その程度で崩れる程、軟弱な関係だとお思いでしたか」
「…」
思ってた。微妙且つ繊細で不安定な関係をいつまでもふわふわと続けているから、ちょっとした事ですぐ崩れると思ってた。
「僕は、貴方たちの事を友人だと思っています。立場を超えた、掛け替えのない、普通じゃない友人だと。謝罪は要らない。その代わり、織田作さんもそう思っていて下さい」
友人だってさ。
ほらね、織田作。君はやっぱり愛されていたじゃないか！
「わかった」
貴方を繋ぎ止める鎖と足枷は十分だろう？
死なせないさ。貴方も、私も。
「じゃあまた、生涯の友人」
悲しい別れには『またね』が鉄則だ。
「…ええまた。僕の友人」

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