【 d! 】僕色の花束を君へ【短編集】 (ページ36)

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Ⅱ ページ36

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彼は今、アイホートという魔物に取り憑かれている。

多分人間が見れる姿は蛞蝓の様な形のものだろう。
あれに襲われると、アイホートは人間の体を乗っ取り、仲間を増やす為に行動し出す。

そして、鬱をここまでにしたのは私でもある。

直接的に何かやったのか、と聞かれれば私自身はアイホートじゃないので相手に取り憑く事は不可能だ。

じゃあ私は一体何なのか。この人間に何をやったのか。

私はアイホートとは綺麗に言えば友好関係、正直言えばアイホートの支配下にある。
私達一族はそれは昔＿＿私の曾曾曾曾曾曾曾お祖母さんとか、多分そこら辺からの話になる。

その頃の一族が住んでいた村では殆どの村人がアイホートに支配され、どんどん村そして隣村へ勢力を伸ばそうとしていた。
そこで、私の一族は一族を潰されない様に、15年に一度15歳の少女をアイホートの【奴隷】として生贄に捧げる事を条件にアイホートと和平。

で、今回生贄に捧げられたのが私だったのだ。

そこで、アイホートに"人間界で勢力を伸ばしたい。手っ取り早く出来るあまり表立たずバレない所でアイホート広めろ"と命令をされ、この屋敷へ行き着いた。

で、今に至るのだ。

彼こそもう自我など無いだろう。

私達生贄は、自我こそ失わないものの、アイホートの監視からは逃げられず、何かをしでかそうものなら乗っ取られ、最悪殺害だろう。

すると、机の上に、彼に似たオーラを放つ手紙を見つけた。

手に取って見てみれば、どうやら彼から友人に宛てたもののようだ。

それも私が見るに全て嘘っぱち。きっとアイホートは他人にも被害を？

『鬱、これ』

「ん？それはお手紙やで。俺からだぁいすきな友達へ」

にたりと笑った鬱は、私の元まで来て手紙を手に取った。

嗚呼、狂っている。

『…アイホートの力がここまで…、』

「これは、Aちゃんが望んだ、導いた結果なんやで」

もう私達は戻れない。

全員巻き込んで今までの事も全て無くさない限りは。

普通に出会えたら良かったよね。なんて。

今更なんだって話なのだろうけれど。

記憶が消えて貴方が元に戻る事を望む自分。

欲望は全て抑えて、このままで。

手紙の中の彼の友人の名前を頭に叩き込み、私は薄汚い欲望で生み出してしまった鬱に微笑んだ。

一瞬見えた顔が、初恋の人の表情で。

目が潤んだ。

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鬱はアイホートに取り憑かれた状態をさす。
では初恋の人とは？ていう