�� ページ22
．
彼の全てに私の心は惹かれる。
髪、瞳、唇、耳、肌、声。
彼に対する興味が、噴水の様に湧き出て止まらない。
嗚呼、彼は人間なんだ
私の五感はそう言った。
この興味の惹かれ方はそれ以外にない。
私が、この世界に飽き始めた私が同族の妖なんかに、興味を惹かれるなんてある訳ない。
というか、こんな所に人間が舞い降りてくるなんて。
ここは神隠しの先でも無い。
ましてや死後の世界でも無い。
たった一瞬の奇跡とたったコンマゼロ以下の秒数が重なったとある場所でしか、この世界と人間界はコンタクトを取れない。
そんなゼロに等しい確率が起こるとは到底思えない。
それに人間界のリンクしやすい日でも無い筈なのに。
『醜い妖に、人間が何の用？』
「…さっき会った奴、確かコネシマっちゅーんには醜い人間て言われたんやけど」
そう言って顔を歪めた。
だからこの世界は嫌いだ。
どう頑張ったって好きになんかなれやしない。
『彼等はこの世界しか知らないの。妖が住む夜の街しかね。だから人間の美しさも昼間の煌びやかさも分からない。いざその光景を見たら眩しすぎて目が燃えそうね。』
自分達の世界の狭さにさえ気づかないのだから愚かよね。私達って。
『で、君は何で来たのかな？』
あまり会話は好きではない。
すでに喉が痛い。なかなか喋らないからな。
そう問うと、彼は先程の私のように顔を歪ませて見せた。
お前が知ってるんやろと言わんばかりである。
『言っとくけど、神じゃないから神隠しは出来ないし、閻魔大王がいないのだから地獄でも無い。ここはただの妖の世界。どう入るのかも理論や化学じゃ説明出来ない。』
「なんや、お前もハズレか」
そういう彼は非常に様になっていた。
けれど、私の心は疼いた。
彼はここにいてはならない。
彼は太陽の元にいなくてはいけない。
立ち上がり、彼の元へ行く。
彼の肩を握って、下駄の先を3回地面にこんこんと当てる。
鈴の音が少し遅れて鳴り、私は息を吐いて自分の舌を噛んだ。
鉄が広がる。それを彼に口移しで飲ませる。
私だって作りは人間。
人間界に通づる物を体内に取り込めば、彼は光となって人間界へ戻る。
『はあ…』
ずっとひとりだった。
だからそれが戻ってきただけなのに。
なんでこんなに心が痛いのだろう。
戻る時あんなに笑顔なのにどこか苦しそうで。
瞼を閉じると、頬を伝う感覚。
目の前にはあの瞳が浮かんでいた。
．
１つの傘で好奇心を守るのは難題である / ut→←導かれて提灯 / rbr
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作者名：眠斗 | 作成日時：2019年5月22日 21時
