第三皇女 ー王女と雑談 3ー ページ28
ヴォルフ「そうね。気候や土地の豊かさもだけれど、それ以上に、指導者に恵まれているわ」
ローゼ「指導者？」
ヴォルフ「そうよ。代々ネーベルは賢王が多いけれど、女性を重用するようになったのも、身分に拘らず実力に見合った地位を与えられるようになったのも、当代の国王になってから。まだ根付いてはいないけれど、次期国王である第一王子も有能で誠実なお人柄だって噂だから、未来は約束されたようなものね」
自分の父や兄の話だという実感は、正直なかった。
ローゼ「そんなに、凄い人達なんですか」
ヴォルフ「あら、他人事みたいに言うのね」
ローゼ「……えっ？」
ヴォルフさんの言葉が一瞬理解出来ず、一拍遅れで弾かれたように顔をあげた。
今、なんて言った？
他人事みたい？
私が彼等と他人ではないと知っているのかと、ヴォルフさんを凝視する。極度の緊張に、背筋を冷たい汗が伝う。
しかし私の畏れなど気付いた素振りもなく、ヴォルフさんは小首を傾げた。
ヴォルフ「だってアンタもネーベル国の人間でしょう？ ネーベルの王族は国民に人気があると評判よ」
ネーベル「え、あ……ああ、そういう」
全身の力が抜けそうになった。強張った体を弛緩させ、息を吐き出す。
様子のおかしい私を見て、ヴォルフさんは『変な子ね』と呆れたように言った。
パウル「ネーベルが誇るのは、王様と第一王子だけじゃない」
ヴォルフさんと私の会話を聞いていたのか、口を挟んだのはパウルさんだ。
彼は鍋をかき混ぜる手を止め、私達の方へ身を乗り出す。
パウル「今は隣国に留学中だが、第二王子のヨハン殿下も優秀な御方だ。気さくな人柄で、ヴィントでも人気らしいぜ」
ヴォルフ「あら、そうなの」
パウル「おうよ。それに、第一王女のローゼマリー殿下もだ」
ローゼ「！」
私は俯いたまま、固まった。
奇声を発しなかったことを、誰か誉めて欲しい。許されるなら、大声をあげて逃げ出したい気持ちでいっぱいだ。自分の評価なんて、聞きたくない。
パウル「お姿を直接見た奴は少ないが、王妃様似の美しい方らしい」
ヴォルフ「王様や王妃様の絵姿を見る限り、不細工に生まれる確率の方が低いと思うわよ」
パウル「まぁ、そうなんだけどよ。それだけじゃなくて、心優しい方らしいぜ」
ヴォルフ「噂なんて、あてにならないかもよ」
良い所の御嬢さんは、甘やかされて我侭に育った世間知らずばっかりと言えば、パウルさんは、きまり悪げに首の後を掻いた。
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作者名：print11 | 作成日時：2019年6月30日 22時
