閑章 ー第一王子の憂慮 3ー ページ17
顔を朱くしたままアクセルの口を塞いでいるA。
そのままの体勢でいられても面白くない。
クリス「それで、何か言われたのですか？」
A「何もありません！」
すかさず反論するが、朱くなった顔で言われても、何もなかったとは言えない。
口から手が離れてから、その内容をアクセルは口にした。
アクセル「陛下に、『私はお父様と結婚する！』と言った辺りから、特にA様への態度が柔和したと聞いてますが……」
A「あ、あ、アクセル!!」
黒歴史を掘り返さないでと、朱い顔を更に朱くしてアクセルに問い詰めだす。
それにしても、可愛い事を言ったのか。
ローゼが同じ事を父に言えば、同じ様になるかと言えば、ならないだろう。
もしなるのであれば、既に父とローゼが二人で話していた時に、何かしら既にそういう風な態度になっていただろう。
A「……時に、クリス様。ローゼとヴィントの王太子様との婚約の話は、まだ出ていませんか？」
顔はまだ朱いままだが、表情は真剣。
以前聞いた時、ヨハンがAとトール宛にも手紙を書いているのを知っている。
ローゼとAに関して言えば、季節の挨拶を織り交ぜた私信。私宛は完全な報告書だ。
ではトールはと言えば、完全な私信の手紙だ。
いつもは一月に一度。だが、今回は前回とさして間を置かずに届いた。つまり、早急に知らせたい事があったという事だ。
内容は、ヴィントにラプターの第一王女が来るというもの。
名目は留学。しかし、本当の目的はヴィントの第一王子だろう。手を替え品を替え、ヴィントへの接触を図ってきたラプターだが、とうとう自国の王女を送り込んできたようだ。
国同士の繋がりを作るには、婚姻は単純だが有益な手といえる。
ヴィントがどう動くかは、まだ分からない。
だが動きがあってからでは遅いのだ。我が国とヴィントが同盟関係にあるとはいえ、不安の芽は摘んでおかねばなるまい。
国王は、何らかの手を講じる。
そしてその一つに、おそらくローゼとヴィントの王子の婚姻も入るだろう。今はまだ可能性の域を出ないが、決まってしまえばローゼに拒否権はない。
Aが懸念しているのもその事だろう。それにもう一つ。Aもローゼの気持ちを知っているせいもある。
隣国との繋ぎだけのために、手放してしまうのは惜しい。Aの様に、そう国王に思わせるだけの、実績と可能性を示す事が出来れば――。
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作者名：print11 | 作成日時：2019年6月30日 22時
