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夜道を歩いて帰路に着こうとしていた時のことである。

異形の怪物に襲われた。

すぐに逃げようと思ったが、何しろ動きが早いし夜道で目もあまりきかない。
近道をしようと山道を選んだのがいけなかったのだろうか。
遠回りになるとしても、大通りの方を行けばよかった。
まあ、今更後悔しても後の祭りだが。

こんな事態になって初めて気がつくが、人間は人の不幸を間近で聞きながら自分が同じ立場になる可能性を考えないものである。
自分は特別だから、まさか自分も同じ目に合うとは考えつかないのだ。

私も、今絶体絶命のピンチでありながら頭のどこかで、自分は大丈夫だろうと思っている。
これと言った根拠は特にないが。

父や兄にもよく言われる。
お前は危機感というものが欠如していると。

しかし私のこの危機感の無さにも理由がないわけではない。
というのも、私は生まれてこの方悪さというものをした事がないので、困ったら神様が助けてくれるはずなのだ。

昔、誰か言っていた。
人は徳を積めば積むだけ良い事がある。
悪い行いをするほど、良い事が逃げていくと。
もうどこの誰だか顔も声も覚えていないというのに、この言葉だけは刷り込んだようにやけに鮮明に覚えている。
不思議なものである。

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作者名:林鈴 | 作成日時:2023年12月31日 2時

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