時計盤 ページ7
北島
外回、検体を病理へ持っていけ
三十分以内にゲフの結果を持ってこい
北島がずっしり重くなった膿盆を手に
手術室を後にする
『受針器に3-0シルクつき
いちダース用意して』
猫田
準備できてます
『さすが麻里ちゃん
では、直ちに吻合に入る』
世良
あの、
段端のゲブの結果を待たなくても
よろしいのですか？
垣谷
バ、バカ！
羽柴先生に向かって何を言ってるんだ
小声で世良を叱りつける垣谷
羽柴先生は顔を上げ
まじまじと世良を見た
それからふっと眼で笑う
『研修医くん、あなたは正しいわ
でもね普通の外科医なら
顕微鏡で確認することを
わたしは指先で出来るの
そういう鍛錬をしてきたからね
わたしの指先は顕微鏡よりも
正確なのよ』
穏やかな声だった
同時に羽柴先生をもっと知りたい
そう思った
羽柴先生は顔を上げ
垣谷先生にいう
『吻合にかかるわよ』
銀色の把針器が
羽柴先生に手渡されると
次の瞬間
患者の身体の深みに沈み込む
白銀の細い三日月のような曲針が
糸を引いて戻ってくると
助手の垣谷先生か糸の両端を
銀色のペアンで留める
一時
二時
三時
四時
羽柴先生が呟くようにカウントする
どうやら吊り上げた小腸を
短く切り込んだ食道と吻合するのに
時計盤の文字位置になぞらえて
縫合しているようだ
数え歌と同じ数だけ
両端に結んだペアンの束が出来ていく
一節で一組が完成する
その作業場は他の誰にも見えない
身体の奥深く
食道段端で把針器が針を通し
それが戻ってくると
手元の小腸段端に糸を通して終わる
鮮やかな残像が
視界の届かない患者の深部でも
同等の繰り返しとして
行われていることを想像させた
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帝(プロフ) - ちゃっちゃんさんへ──ありがとうございます。ドラマだけ見てる方もいらっしゃると思うので敢えて小説のまま書いてある部分があります。これからも精進致します。 (2018年5月7日 11時) (
レス) id: 8b6dd09fc1 (このIDを非表示/違反報告)
ちゃっちゃん - 佐伯教授にも信頼されている様子が分かり、とても良い設定だと思います！これからの展開を楽しみにしています！ (2018年5月7日 10時) (レス) id: fc5666b067 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：帝
| 作成日時：2018年5月4日 10時
