映画 ページ3
花房
もう、世良先生ったら
冗談ばっかり
世良
なにを読んでいるのかな
花房
あ、返してください
世良が花房の手から本を取り上げる
ハードカバーの薄い本を
世良はぱらぱらとめくる
世良
何これ、俳句？
花房
違います、短歌の本です
世良
ふうん、サラダ記念日って変なタイトル
花房
私と同じくらいの女性が詠んだ歌集です
去年のベストセラーなんです
世良
へえ、短歌集がベストセラーになってたんだ
全然知らなかった
花房
世良先生は本はあまり読まないんですか？
世良
そうでもないけど、去年は受験生だったし
今年は今年で下っ端の外科医だから
最近は本なんて読む暇がないなぁ
考えてみたら映画だって二年ぶり、かな
世良は思い出す
最後に見たのはバック・トゥ・ザ・フューチャー
というＳＦ映画でその時隣に座っていたのは
すっかり疎遠になった恋人、裕子だった
世良は駅ビルの向かいにある映画館を見上げて言う
世良
少し早いけど行こうか
でも本当にこの映画でいいの？
花房
ええ、ずっと楽しみにしてたんです
花房は嬉しそうに微笑んでいた
映画館の看板には
太ったタヌキのマンガが描かれていた
世良は首をひねりながら
花房に聞こえないように呟く
､､､､､､一体何なんだ、トトロって
暗闇の中
隣の花房が映画に没頭しているのを感じながら
世良はポップコーンをほおばる
ようやくタヌキのお化けが出てきた
アニメなんて久しぶり
しかも映画館で見るなんてと思っていた世良は
少しアニメ映画を見直し始めていた
主人公の女の子がお母さんに会えたようだ
隣で花房が鼻をすすっている
世良は思い切って手を伸ばす
暗闇の中、ひんやりとした手をつかまえる
一瞬、その手が震えた
世良は細い指を掌で包む
行き先を決めかねた指か微かに震え
諦めたように力を抜いた
世良は包み込んでいた手を緩めて指をからめた
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作者名：帝
| 作成日時：2018年6月22日 13時
