弐『最上階の隠人』 ページ7
屋敷中を走った。もう息はぜーぜーと荒く、体力も限界に近い。背後では私を探す声が響いている。
もう脚がガクガクだ。膝に力も入らなくなってきた。
『はぁ、………、もう、…はぁはあ……』
どたどたと走る音が響いてくる。こっちに来ちゃう…もう逃げ場ないかも。
「金香様!!お戻りくださいませ!!!」
いや………
「今なら楼主様もお許しになられますよ!!!」
いや……!!!
嫌だ嫌だと何度もかぶりを振って、思考回路を巡らせる。きっと打開策はある。大丈夫。そう自分を幾度肯定して、鼓舞した。
そう、意を決した1歩を踏み出そうとした時だった。
『えっ………。』
.
直感で分かったのがそれが男の手だということ。
力強い骨張った手が私の手首を掴んで離してくれない。ぶんぶんと腕を振ってもビクともしない。
男の人だと悟るには十分な材料だった。
そしてここがどういう場所かを再確認して見ればこれがどれほど恐ろしいことか分かるだろう。
ここは遊郭。取りまとめる楼主は男。この屋敷にいる男なぞ用心棒として雇われた数名と欲に塗れた客だけだ。そんな数少ない選択肢、どれであっても自分が絶望的立場にいる子は明白だった。
『いや……っ!!離して!!!』
頭の中の整理が追いつかないまま、振り続けた腕がすっぽりと抜け、しめたと思った。しかし、そのまま逃げ出そうとした体ごと抱きしめられて身動きが取れなくなった。
それと同時に体が凍った。
自分の体を清いまま保とうと思ったら、他人に、異性に触れられることはご法度だということ。
今までの接客でやんわりと上手いこと断ってきた身からすると、抱きしめられるだけで私の頭は処理が追いつかない。
背後では先程まで私がいた廊下を複数の追っ手が走り去って行く音が聞こえた。追っ手に見つかることから逃れたことにほっと息を漏らす。
「行ったか?」
「行ったんとちゃう?暫くは来うへんとのちゃいます?」
しゃらん しゃらん
幸せが訪れるとき、それは音と共にやってくる。
目の前で緑色と黄色の硝子玉が光っていた。
目が離せなくなるほど綺麗だった。欄間から入ってくる月の光がこんなに似合う人はいない、そう思ってしまうほど見惚れてしまった。
「大丈夫だった?花魁さん?」
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さくらいろ(プロフ) - マロンさん» ありがとう(*´˘`*)最近更新する時間を作れることが多くて今頑張ってます!待っててください(^^) (2020年5月30日 16時) (レス) id: 8627590864 (このIDを非表示/違反報告)
マロン(プロフ) - さくちゃん待ってたよぉぉお!!てか最初の方から好きすぎてやばいのですがどうしましょう!?← え、取り敢えず好きすぎてやばいです……!!!、 (2020年3月22日 21時) (レス) id: 16f9fe16fe (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:さくらいろ | 作成日時:2020年2月27日 23時