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「買い物に行かへん?」

千羅さんに要件を聞いた途端、その言葉を口にされた。一瞬口をあんぐりと開け、彼の言葉を自分の頭の中で幾度となくその言葉を繰り返す。・・・それは外に出ても良いってこと?

私が外に出るときは花魁道中の最中つながりのある手引茶屋まで迎えに行くときくらいだったから。自分のために外を出ることなんて、本当の意味で今までなかったかもしれない。


「これから生活するんやったら、ある程度のものは必要やろ?」

『・・・・・・・・・っでも、私お金なんて・・・。』

「だから俺も行くんやって。」


大丈夫と念は押されるけれど、突然のことに慌ててしまう。でも、ちょっと楽しそうに頬を綻ばせて、手を握ってくるから、なんだか絆されてしまう。ずるいな・・・こうやって女の人落としてきたのかな。

いや・・・彼の顔がそう見えるのは、自分が本当は行きたいから何だろうな・・・。“貴女がしたいのなら付き合いましょう”なんて、それこそわがまま(・ ・ ・ ・)ね。情けないわ。初めてのことに浮き足立つなんて子どもみたいね。でも、世間知らずの籠の中の鳥からしたら、何も格好悪くないのよ、A。ちょっとくらい、かわいらしい子どもに戻ったって、良いじゃない。


『是非、連れて行ってください。』


そう結わずに垂らしたままの髪を揺らして、笑いかけると、笑いかけてくれて、また、ほうっと心の中に明かりが灯った。




.




.




とりあえずこれ着てと手渡されたのは、今まで見た中で1番質素な着物だった。・・・ただあんな煌びやかな世界にいたから感覚が鈍っているのも否定はしない。今度は菜の花色の京小紋柄の代物。でも、よく見ると細かに描かれた小さな百合の花が綺麗だった。なぜ、女物の着物がぽんぽんとそんなに出てくるのかは分からないが。



「A?準備できた?」

『すみません!もう出ます!』


そう叫んで、最後にやっぱり鏡台の前に立って髪を直してながら、椿油を塗ってちゃんとできる限り自分をめかし上げた。一番最後に手に取ったのは、筆と紅。ずっと塗ってる。でも普通の人はつけないのかな。それさえもわかんない。考えても、やっぱりわからなくて、でも紅を塗っていない私はどこか物足りなくて、紅を持つ手が震えた。



「紅はええんとちゃいます?」

『・・・わっっ。千羅さん・・・!!!』

「驚かせてごめんな。遅くて心配になって・・・。」


彼は私の手から取り上げた紅を、見てそう言った。

*→←肆 『帆翔ノ一時』



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さくらいろ(プロフ) - マロンさん» ありがとう(*´˘`*)最近更新する時間を作れることが多くて今頑張ってます!待っててください(^^) (2020年5月30日 16時) (レス) id: 8627590864 (このIDを非表示/違反報告)
マロン(プロフ) - さくちゃん待ってたよぉぉお!!てか最初の方から好きすぎてやばいのですがどうしましょう!?← え、取り敢えず好きすぎてやばいです……!!!、 (2020年3月22日 21時) (レス) id: 16f9fe16fe (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:さくらいろ | 作成日時:2020年2月27日 23時

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