階級・甲の癸さん拾陸

720話　鬼舞辻side ページ26

春姫「…綺麗。」



春姫を連れて来たのは、夜桜が綺麗に見える場所。



…春姫を拾った日に見つけた場所だ。



鬼舞辻「覚えていないか、この先で…」



春姫「無惨さんと出会った場所があるんですよね。」



にこ、と笑いながらそう言う。



…忘れてなかったのか、今はもう十六にもなる…十二年程経つというのに。



鬼舞辻「…そうだな。」



春姫「…あの時私には何もなくて…生きるのも死ぬのもどうでも良かったんです。」



…突然話し出す春姫を見ると、春姫は静かに桜を見上げていた。



短かった髪も伸び、今では腰よりも長く少しふわっとしている。



…ああ、成長した。



春姫「だから、無惨さんが私に手を伸ばした時…死ぬのかなって。」



鬼舞辻「…殺す気だったことに気付いていたのか。」



そう聞くと、少し困ったように笑いながら見てくる。



春姫「…良かったから…こんなに綺麗な人に殺されるのなら、本望だなって。」



…あの時から変わらず、春姫はいつでも不思議だ。



私のような…もうどれだけ人を殺したかさえ覚えていない鬼を綺麗という。



私に殺されるのなら良い…などという。



鬼舞辻「…そう言う春姫だから、生かしておいたのだろうな。」



…そうでもなければ、生かしてなんておかなかったかもしれない。



春姫「…此処まで育ててくれて、ありがとうございます。」



…何だその言い方は、これからも育てて行くに決まっているのに。



鬼舞辻「礼など要らない。」



そんなもの、必要ない。

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