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「考えられるのは二つ」
二本の指を立てて、言う。
「倒れた拍子にギターに当たり、位置がずれてしまった」
「そして、誰かがこの棚を動かす為に、ギターを移動させた際にできた傷の二つ」
姉の言葉に続いた妹は、笑顔を表情から消し去っていた。その顔はひどく冷たすぎる。
だがそんな妹を背にしている姉は気づかない。ただ真実を暴こうと推理を披露する。
「でも、前者は到底傷ができようもないわ」
一本の指を降ろして一本だけが聳え立つ。冷静な姉と妹の推理は、今のところ合っている。
「どうしてですか?」
すると隣の蘭が素朴な疑問を投げた。鈍色の瞳をこちらに向け、溜息交じりに説明する。
「だって、この店のギターは全部壁に掛けてあるもの。当たったら怪我の二の舞、でも店長は他に外傷はない。それに店員曰く、ギターは落ちてなかったようだし」
そういえばそうだと蘭が壁を見て、嘆息する。納得した彼女を一瞥すると、再び揃った顔ぶれに目線を戻す。
手を腰に当てて、胡乱げに睨み付けた。――恐らくあの双眸に犯人が映し出されている。
「犯人はわざわざ棚を移動させ、店長の頭に落下するよう仕向けた」
か細い喉から出る声は一段と低く、しかし綺麗に澄んでいるままだ。
「店長が死んで、何か得られるとでも思ったのかしらね?」
耳に滑り込む音色は静かな憤慨を孕んでいる。触れようとすれば、風船のように弾けて破れるだろう。
「得られるのは自己満足と罪悪感だけなのに」
鈍色の瞳がスッと冷酷に細められる。長い睫毛に縁取られた瞳は、宝石のように美しい。
まるで、その人の心を表しているかのように輝いている。
立てたままの細長い人差し指をゆっくり降ろしていく。そして、犯人の胸を撃ち抜くように定まったのち、
「犯人は――従業員の、佐久間健さん、あなたですよね」
疑問系ではなく、確信を得ている語尾。名前を呼ばれた男の従業員――佐久間健は、恥ずかしげに目を伏せた。
周りにいた同僚があからさまに驚く。それは築き上げた信頼をコナン達に証していた。
佐久間は暴れもせず、否定もせず、力なく首を縦に振る。動機を話そうと乾いた唇を震わせた。
「店長はいつも傷付いた楽器や、破損した楽器を売っていました。私はそれが許せなかったんです」
「楽器が奏でる、美しい音楽が好きだから――」
「反省してもらおうと私が店長に重傷を負わせました。本当に、すみませんでした」
何かを一途に愛す者が行った、愛憎の事故。――輝く楽器は愛の黒を知らぬまま、金色の音を奏で続ける。
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