検索窓
今日:2 hit、昨日:0 hit、合計:520 hit

04 ページ7

「考えられるのは二つ」

二本の指を立てて、言う。

「倒れた拍子にギターに当たり、位置がずれてしまった」

「そして、誰かがこの棚を動かす為に、ギターを移動させた際にできた傷の二つ」

姉の言葉に続いた妹は、笑顔を表情から消し去っていた。その顔はひどく冷たすぎる。

だがそんな妹を背にしている姉は気づかない。ただ真実を暴こうと推理を披露する。

「でも、前者は到底傷ができようもないわ」

一本の指を降ろして一本だけが聳え立つ。冷静な姉と妹の推理は、今のところ合っている。

「どうしてですか?」

すると隣の蘭が素朴な疑問を投げた。鈍色の瞳をこちらに向け、溜息交じりに説明する。

「だって、この店のギターは全部壁に掛けてあるもの。当たったら怪我の二の舞、でも店長は他に外傷はない。それに店員曰く、ギターは落ちてなかったようだし」

そういえばそうだと蘭が壁を見て、嘆息する。納得した彼女を一瞥すると、再び揃った顔ぶれに目線を戻す。

手を腰に当てて、胡乱げに睨み付けた。――恐らくあの双眸に犯人が映し出されている。

「犯人はわざわざ棚を移動させ、店長の頭に落下するよう仕向けた」

か細い喉から出る声は一段と低く、しかし綺麗に澄んでいるままだ。

「店長が死んで、何か得られるとでも思ったのかしらね?」

耳に滑り込む音色は静かな憤慨を孕んでいる。触れようとすれば、風船のように弾けて破れるだろう。

「得られるのは自己満足と罪悪感だけなのに」

鈍色の瞳がスッと冷酷に細められる。長い睫毛に縁取られた瞳は、宝石のように美しい。

まるで、その人の心を表しているかのように輝いている。

立てたままの細長い人差し指をゆっくり降ろしていく。そして、犯人の胸を撃ち抜くように定まったのち、


「犯人は――従業員の、佐久間健さん、あなたですよね」


疑問系ではなく、確信を得ている語尾。名前を呼ばれた男の従業員――佐久間健は、恥ずかしげに目を伏せた。

周りにいた同僚があからさまに驚く。それは築き上げた信頼をコナン達に証していた。

佐久間は暴れもせず、否定もせず、力なく首を縦に振る。動機を話そうと乾いた唇を震わせた。

「店長はいつも傷付いた楽器や、破損した楽器を売っていました。私はそれが許せなかったんです」


「楽器が奏でる、美しい音楽が好きだから――」


「反省してもらおうと私が店長に重傷を負わせました。本当に、すみませんでした」


何かを一途に愛す者が行った、愛憎の事故。――輝く楽器は愛の黒を知らぬまま、金色の音を奏で続ける。

05→←03



目次へ作品を作る感想を書く
他の作品を探す

おもしろ度を投票
( ← 頑張って!面白い!→ )

点数: 10.0/10 (1 票)

この小説をお気に入り追加 (しおり) 登録すれば後で更新された順に見れます
設定タグ:名探偵コナン
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告

感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)

ニックネーム: 感想:  ログイン

作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ

作者名:暁の雨 | 作者ホームページ:http:  
作成日時:2018年10月22日 16時

パスワード: (注) 他の人が作った物への荒らし行為は犯罪です。
発覚した場合、即刻通報します。