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ルナの心臓 / 1 ページ27

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「Aちゃん」

柔らかなその音は、ころころとAの鼓膜に滑り込んだ。
振り返れば真っ白な少女 ───那須玲がAに手を振り微笑む。ボーダーの検査室、もう数回目の那須との交流にAは慣れることなくドキドキと鼓動を急かしていた。


「那須さん」
「私も検査なの。いっしょだね」
「はい」
「最近たくさんAちゃんと会えて嬉しい」


鶴髪童顔な少女から生まれた微笑みは今日もAだけが独り占めで、Aのためだけに生み出されたものだ。Aはそんな那須の美しい笑みと真っ直ぐに柔らかいところをくすぐる言葉に少しだけ頬を染めた。

那須玲という少女は美しい。
美人薄命という言葉がある。美しい人は病弱であることが多く、数奇な運命に翻弄され、不幸なことがあるという四字熟語だ。那須はその言葉通り、極度の虚弱体質でまともに外に出歩くことが少なくほとんどをベッドの上で過ごした。ボーダーへの入隊もトリオンと健康に関連する研究に協力するという理由があるため、那須はボーダーに訪れると大体は検査室にいる。
外の光をまともに知らない白い柔肌、美しい絹のような細い髪に、光を失った虚ろな青色を閉じ込めた瞳。アンバランスなのにその容姿は那須の美しさをひきたて、そしてアンニュイな独特の雰囲気を出していた。Aはそんな雰囲気に当てられ、初めて那須と出会った時、ボーダーには天使がいるのだと思った。そう思わせる魅力を秘めた那須に微笑まれればAはいつも決まって、ドギマギとしてしまうのだ。


「最近調子良くてね、この前も久しぶりにランク戦をしてきたの」
「那須さんはすごいつよいって小南さんも言ってました」
「あら、ほんとう?うれしい」


くすくすと嬉しそうに笑う那須を見て、Aは再度その美しさに見とれた。
無機質で硬い椅子がぎぃ、と鈍い音を立てた。




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作者名:40 | 作者ホームページ:   
作成日時:2021年6月6日 22時

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