ボイジャーが残した勇気 / 1 ページ25
.
その後はAたちに気づいた職員たちに謝罪とともに検査結果を伝えられた。
本当に特殊な例らしく、Aは定期検査の他にもエンジニア側からも協力を頼まれた。曰くトリオン有無に関係なく技術的研究への協力らしい。Aにはよく分からなかった。ただ隣にいた烏丸が別に受けなくてもいいと厳しい顔で言っていたが、Aは首を縦に振り協力に頷いたのだけは確かだった。
烏丸はそんなAに対して心配していた。
正直Aを体のいい実験体にしか見てないのが見え透いていた。Aは一般人だ。烏丸はそれが気に食わなかった。それなのにその提案にAは頷いた。分かっていて頷いていると烏丸は確信している。だからこそさらに気に食わなかったし、心配になった。
次の検査の段取りや説明を軽く受けたあと、今回の検査結果の資料の入った紙袋を貰い部屋を後にする。その間、ずっとAは悲しい色を目の奥に宿していたのを、烏丸だけは気づき見逃さなかった。
「……おれは今日顔を合わせたばかりだけどもうおまえのことがだいぶ心配になってる」
「えっ」
「本当にいいのか？別に無理に受けることないだろ」
「でも、」
「別に受けなくても玉狛のひとたちなら言わないだろ。とくに迅さんなんておまえのこと守ってくれると思うが」
「……そうかもしれないですけど、自分が出来ることをやりたいと思っただけなんです。だから、むりとかそんなことないんです」
Aはそう言って曖昧に笑った。
烏丸は色々言いたい気持ちが湧き出るのを押えて、絞り込んで話す。
「……相談」
「？はい」
「ちゃんと嫌になったら言うこと。ちょっとでも気になることが出来たら相談。おれじゃなくても玉狛のだれかにしてくれ」
烏丸はそう言いAの目を見た。
ゆらりと、揺れた瞳を見つめる。
Aはただ心を守ろうとしていたのかもしれない。
この世界に無い居場所を無理やり作るために、自分の出来ることをやるという美しい建前の後ろで隠れ泣いていた。
玉狛の人たちは優しいが、Aの居場所はどこを見たってないのだ。心に残る喪失感は何ヶ月経とうが、迅が与えてくれようが、消えることは無かった。
.
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 401人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「ワールドトリガー」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：40 | 作者ホームページ：
作成日時：2021年6月6日 22時
