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待ちぼうけのスターゲイザー / 1 ページ1

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「大丈夫そう?お嬢さん」

変なサングラスだな、とAは思った。
身に置かれた状況は限りなく非日常であり、普遍的であった生活そのものを壊しているのは変わりないというのに、Aはただただ呆然としていた。

目の前でAの顔を覗き込む青年は、応答しないAに再度「おーい」と声をかけるも、Aは応答しなかった。

Aはただ呆然としていた訳じゃない。その身に起こった全てをゆっくりと辿りながら思い出そうとしていたのだ。



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小鍛冶Aは至って普通の中学生であった。
十四歳を迎え、学校生活にも慣れきり、普段の登下校に使う電車をその日も眠気まなこで待っていた。朝のホームは混んではいたが、Aが住んでいる街はそこまで都会という訳でもない穏やかな街で、ドラマで見るような満員電車を味わうなんてことは無かった。その日も例外なく、疎らに人が立つホームでAは英単語カードをペラペラと捲りながらぼんやりと待っていた。
夜更かしが祟り眠気が頭を支配する中、目で受け止める情報は何一つ記憶として残らないのを感じ、Aは今日の朝ある英語の小テストは赤点かもしれないなと思うしか無かった。それでも悪足掻きだと、何回も英単語カードを見返していた。


caseは入れ物と、あともうひとつ意味があったはず。なんだっただろうか。

数秒悩むも分からないと結論が達すると、ページをめくろうとした。その時であった。

思わず目を瞑るような強風がホームを吹き荒らした。手から滑り降ちる英単語カードもそのままにAは線路に落ちぬよう一歩身を引いた、はずであった。予想もしていなかったことが起こったのだ。見慣れた黄色の点字ブロックよりも前に体が傾くのを阻止したAが顔をあげれば、そこは先程まで朝の喧騒を纏わせたホームではなく、無人駅になっていたのだ。

「……事件だ」

Aは奇しくもこの時事が起こる前まで分からなかった単語のもうひとつの意味を思い出すことになる。




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待ちぼうけのスターゲイザー / 2→



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作者名:40 | 作者ホームページ:   
作成日時:2021年6月6日 22時

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