花弁ひとつ【われそら】 (ページ35)

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暫くすると看護師が訪れ、外出の準備が整えられていく。
歩けるかと心配したが、ウルリカは「まだ歩けるわ」と胸を張って答えた。
カールはいくら歩けるとはいっても覚束ない足元のウルリカが心配で、腰を抱き、腕を握ってウルリカを支えた。掴んだ腕の細さをカールは忘れられないだろう。
随分と触れ合わないうちに一回りも痩せてしまったウルリカを痛々しく思いながらも、一人で歩こうと足取りを緩めないその姿がいじらしくも思えた。

やっと病院のロビーから出て、雪の降り積もった外へと出ることができた。
よくこんな寒い時期に許可が出たなとぼんやりと考えながらも、カールは先々歩こうとするウルリカに歩幅を合わせ、支えて歩く。

ちっぽけな窓の枠の中から眺めているだけだったジオラマのような風景を、眺めるのではなく直接触れ合える喜びを、ウルリカは全力で謳歌していた。
カールは少しハラハラしながらも、入院してからどこかつまらなさそうだったウルリカの表情に、鮮明な色がついたようで少し安心した。

一頻りはしゃぎ終えたウルリカと、それに付き合っていたカールは病院の庭園に設置されたベンチに座る。

「鼻の先が真っ赤よ、カール。」

「お前もだぞ、ウルリカ。」

ウルリカは、カールの肩に自身の頭を預ける。カールは満更でもなさそうにウルリカに肩を貸した。

珍しく上機嫌なカールの表情が、ウルリカには堪らなく愛おしかったし、手放してしまうのが口惜しいを通り超えて恐ろしくさえあった。
冷えていた目元がじんわりと熱を持つのが伝わった。
口惜しい思いをしてるのは貴方だけじゃないのよと言わんばかりにカールに凭れる。

ウルリカは少し俯いた。
それにつられてカールも俯く。

二人の間には穏やかな静寂が広がっている。
しんしんと雪が降り積もる庭には二人以外誰も存在しなかった。
カールはその静寂に身を委ね、その静寂を心地良く思った。

「ねぇ、カール。」

その静寂を破るようにウルリカが声を出した。
カールは上機嫌を保ったまま、「どうした?」と返事をする。普段ならカールは返事をせず、ウルリカが言葉を続けるのを待っているだけなのだが、今日は上機嫌の中でも殊更な方なのかもしれない。

ウルリカは無理に口角を上げた。
目の奥が熱くなるのには気付かないふりをした。
手が震えるのは寒さのせいだと言い訳を付ける。

そして、いつもの穏やかな笑みを顔いっぱいに広げて、精一杯落ち着いた声で言う。