ほんとうの友達 ページ30
「__貞児、聞いているの?」
貞児は慌ててソフィアから目を離し、眼の前の展示物に目線を移す。解説を聞いていないだけでも失礼なのに、別の場所を見ているのはもっと失礼だ。
ソフィアは訝しげな表情で貞児を見たあと、少し心配そうに貞児に向き直った。貞児は何となく咎められたような気がして、またもやソフィアの顔に目を移す。
「ごめんなさい、ソフィア・アレクセーエヴナ・ロマノヴァさん…もう一度お願いしても良いかしら…」
「……疲れているんじゃない?見たい展示物も全て回ったし、今日はもう帰りましょう。」
「え、えぇ。そうね。少し疲れていたかもしれないわ。」
ソフィアはいつもと違う貞児の様子を心配したのか、美術館の出口の方へ歩き出す。貞児も何となく今日は集中できないと感じ、ソフィアに続いて美術館の出口へ歩き出す。
美術館の外に出ると、冬の気配を感じる寒さが貞児とソフィアを包んだ。貞児は何となくその寒さに寂しさをおぼえ、このまま一人で帰路につくのが心細くなった。
貞児は、少し先を歩いているソフィアの手を引いた。
ソフィアが驚いた表情で振り返ったが、貞児は美術館の近くにあるこじんまりとしたカフェを指さして「少し寄っていかない?」と首を僅かに傾げた。ソフィアが「えぇ」と肯定したのを見て、貞児はカフェの方へ歩き出す。
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