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8.トラウマは後に客観視される ページ8

*



 中年男性のやや低い声、女子高生のきゃらきゃらとした声、子どもの無邪気そうな可愛らしい声、その他様々、騒然として聞き取れないくらいのいろんな声が突然調和して、一言言葉を紡いだ。


「なぜお前はそこに立っている?」


 ヒッという呼吸音がステージ上に鳴り響いた。


「演技が上手すぎて怖い」
「元々不気味だったのよ」
「笑い方が不自然」
「顔も人形みたい」
「子役のくせに」
「人殺し」
「お前のせいで何人死んだ?」
「あんたの異能力、そんなものがいけないのよ」
「舞台に立つ資格もない」
「二度とテレビに映らないで」
「ーーーーー私この子、嫌いなんだよね」
「気味悪い」

「違うの、私、殺したくて殺したんじゃない」


「ごめんなさい」

「こわいなぁ」


 わたしが幼少期の記憶を取り戻したのは、ポール・ヴェルレエヌが襲撃してきて、彼の命の灯火が今に潰えんとした時だ。彼は私を殺害せんと様々な企てを目論んだのだが、私自身の異能と彼の異能が盾と矛のようであることから互いに拮抗し合っていたのは記憶に新しい。当時は何故そこまで彼が私に固執するのか分からなかったが、記憶を取り戻した瞬間に涙ととある感情が込み上げたのを思い出す。

 私が役者をやっていた時期は施設に保護されていた頃のことであり、その当時は感情といった全ての思いが遮断されていたようで。しかし心の奥底で眠っていた「私」の心は、きっと役者を楽しんでいたのだ。楽しんでいなければ、今こんなにも演技に執着しているわけがない。こんなに異能力を忌み嫌っているわけがない。


「ほんと、笑っちゃうくらい苦しいなあ」


「A」


「嫌だ、嫌だなあ……」


 隠してきたことがバレちゃうのは。


「A!」


 中也の声がAの耳元を掠った。湧いてくる汗は仕方ないにしても、これは良くないと自制した「私」が、ガタガタ震える奥歯を止めた。


「太宰くん。あなたはどうせ死刑だよ。でもそれは、わたしたちが決めることじゃない。分かってるよね、お兄ちゃん。罷免も処刑も免れない。それに、(わたし)にはあなたにどうしても死んでもらっては困る理由がある」


 コツ、コツとブーツのヒールが音を立て、太宰の身体へと近付いていく。中也に首元を掴まれたままのその男の鳶色の瞳を見つめて、淑やかに笑みを浮かべた。血で血を洗うヨコハマの暗がりを煮詰めたようなこの地下に、彼女はやはりどう見たって似つかわしくないのである。
 


*

9.口止め料は高くつく→←7.私とわたしの秘密



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宮古みなこ(プロフ) - 黒灰白有無%さん» 返信遅くなってしまい大変申し訳ありません😭キスが精一杯のプラトニックラブを描いているつもりなので綺麗な物語と言って頂いてとても嬉しいです!私もごごりのシーンは懲りました!内容は超考えてるので更新頑張ります!本当にありがとうございます。💦 (9月29日 22時) (レス) id: 3762c357ba (このIDを非表示/違反報告)
黒灰白有無%(プロフ) - 失礼致します題名に惹かれまして1から拝見為せて頂きました!綺麗な物語というイメージが大きいです.ゴー/ゴ/リとの絡みが特に大好き過ぎます!!綺麗で且つ迚も面白かったです!!続きも楽しみに仕手おります無理は為さらないで下さいね.これからも応援しております!! (9月15日 15時) (レス) id: 1ab55170b6 (このIDを非表示/違反報告)
宮古みなこ(プロフ) - 風花さん» ちょうど読み返していたところでした❗️コメントを頂きありがとうございます。現在続きを作成中です!!!待っていて下さって大変感謝しかありません。もう暫くお待ち頂けると嬉しいです!前作に引き続きありがとうございます! (9月4日 23時) (レス) id: 3762c357ba (このIDを非表示/違反報告)
風花(プロフ) - やはりこの作品は面白い!!続きを楽しみにお待ちしております!! (9月4日 12時) (レス) id: 093315c16a (このIDを非表示/違反報告)
kurumi - こちらこそ、返信有り難う御座います。しょうう、と読むのですね。どうも、人名を読むのは不得意なものでして…😅 (8月19日 10時) (レス) id: 36a2ebbf69 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:砂糖やよい x他1人 | 作成日時:2023年7月11日 21時

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