17.怒りに身を任せ ページ17
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「久作くんは本は嗜む?」
「少しは読むよ、あなたたちが閉じ込めたこの牢の中でね!」
「そう」
目を薄く細めて微笑を讃えるその姿は完膚なきまでに美しい。子供に優しく接する幼稚園の先生なんか似合うし、白衣の天使の看護師だって映える。真っ白な会社員でもことさら彼女は似合うだろう。何だってやってのけるだろう。
「江戸時代中期の儒学者の人で、こんな考え方をした人物が居るんだけれどね」
「人には生まれ持った才能があって、それには勿論人によって様々な分野での差がある。でもそれをあまりに悲観するのは良くない。寧ろそこからどう極めるかこそが重要なんだ」
「……あなただって、僕の異能力を持って生まれたら、そんな酷い言葉は云わなくなるよ」
酷い言葉。彼女はその言葉を口の中で咀嚼し、反芻するように脳みその中で唱えた。
「良いよねその異能力!凄く強力で自分は絶対に傷つかないし、僕ほど嫌われるなんてことも無いんだ!」
「......そうだね。あなたほど嫌われることはないね、久作君って本当に可哀想。いっそ生まれて来なければ良かったのにね」
幼稚園の先生だろうが白衣の天使だろうが、それでもつい口走った。
「可哀想」や「生まれて来なければ良かった」という発言による糾弾がどれだけ辛いのかを、個人としても他者から見た側としても分かっていたはずであるのにそう吐き捨てたのはどうしてだろうか。抑えられない衝動であったともいえようし、ふと漏れ出た言葉だったのかもしれない。
彼はややもするとAに掴みかかりそうになるも、あえなくAの異能で抑えつけられた。そのまま立方体の亜空間の中に閉じ込められ、強制的に移動させられて夢野久作は泣き喚いた。あまりに閉塞的な空間だ。酸素があるといっても、ここにはなにものもない。温情も、冷たさどころか、ずっと一人ぼっちだ。牢の扉の前、そして自身のいる空間の下にいる彼女の顔色は伺えた。
そこにはなにもなかった。人の温かみがないのだ。あれじゃまるで人形だ。
何が幼稚園の先生だ。何が白衣の天使だ。
演じているのは人形だ。これは酷い人形劇だ!
瞬間、底知れぬ恐怖が自分を襲ったことに気が付いた。
「僕、中原さんの『人間ごっこ』、大っ嫌い!」
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宮古みなこ(プロフ) - 黒灰白有無%さん» 返信遅くなってしまい大変申し訳ありません😭キスが精一杯のプラトニックラブを描いているつもりなので綺麗な物語と言って頂いてとても嬉しいです!私もごごりのシーンは懲りました!内容は超考えてるので更新頑張ります!本当にありがとうございます。💦 (9月29日 22時) (レス) id: 3762c357ba (このIDを非表示/違反報告)
黒灰白有無%(プロフ) - 失礼致します題名に惹かれまして1から拝見為せて頂きました!綺麗な物語というイメージが大きいです.ゴー/ゴ/リとの絡みが特に大好き過ぎます!!綺麗で且つ迚も面白かったです!!続きも楽しみに仕手おります無理は為さらないで下さいね.これからも応援しております!! (9月15日 15時) (レス) id: 1ab55170b6 (このIDを非表示/違反報告)
宮古みなこ(プロフ) - 風花さん» ちょうど読み返していたところでした❗️コメントを頂きありがとうございます。現在続きを作成中です!!!待っていて下さって大変感謝しかありません。もう暫くお待ち頂けると嬉しいです!前作に引き続きありがとうございます! (9月4日 23時) (レス) id: 3762c357ba (このIDを非表示/違反報告)
風花(プロフ) - やはりこの作品は面白い!!続きを楽しみにお待ちしております!! (9月4日 12時) (レス) id: 093315c16a (このIDを非表示/違反報告)
kurumi - こちらこそ、返信有り難う御座います。しょうう、と読むのですね。どうも、人名を読むのは不得意なものでして…😅 (8月19日 10時) (レス) id: 36a2ebbf69 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:砂糖やよい x他1人 | 作成日時:2023年7月11日 21時