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2.彼の趣味 ページ2

*


 立原くんのような例外を除き、基本的にはわたし以外に誰もここには立ち入らないので、ほとんどわたし専用の部屋となってしまっている。「彼」の趣味では全くないピンクの机も可愛らしい紅茶の器もキッチンも、全部わたし好みのものだ。ここは一応幹部室であるはずであるし、それを指し示すように先程の立原くんはわたしの誘いを断ったのだが。


 「こんなのでごめんね」と急須で淹れたお茶が入ったティーカップを彼と向き合う机の上に置いてあげた。椿柄のティーカップと日本茶はアンバランスすぎる。彼は「あざす」と持ち手を掴んで、口の方に持ち寄り、ごくりと喉を鳴らす。熱かったのか、唇を割ってちいさく舌が突き出ているのをわたしは見逃さなかった。もしかして、ちょっとだけ、猫舌だったりするのかな。

 人間観察は、わたしの癖のようなものだ。抜けない習慣。


「姉さんって彼氏とか居ないんすか?」

 
 静寂の空気が訪れるのを恐れるように、立原くんが口を開いた。わたしは近場のコンビニエンスストアで買ってきたパンを口に運びながらも、彼の質問に応じた。


「居たことないよ」
「え、まじすか?」
「うん」


 ありがちなその反応、わたしは意外に残酷だと思う。あの男にべらぼうに捧げてきた虚無な数年間を、否が応にも自覚してしまうから。普通のハタチなら彼氏も数人居ただろうに、ましてやこの顔なのだ。


「いや、だって......」
「『かわいいし』?」
「は!?」
「立原くんって面白い子だよね。見てて飽きないよ」


 けらけらと笑ってみせる。
 いや、本当に。心の底からそう思う。
 やめてくださいよと言いたげな顔で眉根を下げた彼にごめんごめん、と柔らかく笑いかけた。


「はあ、立原くんみたいな可愛いいい子だったらなあ。良かったのに」
「……だいたい、俺19ですよ。確か一個しか違わないッスよね?」
「確かに。近いね、わたしたち」


 少々面白くないといった様子で、向かいに体を置く彼がわたしのことを見つめる。
 あれは二個上だ。ナカハラチュウヤと同い年なのだから間違いないだろう。
 そう考えればわたしと立原くんとの間と、彼とわたしの間では2倍もの差である。

 下唇を噛んで俯いて、それから意を決して再度立原くんの顔を見つめた。恍惚な表情を浮かべながらも、その瞳はどこか苦しげで。


「あのね、一途なんだ、わたし。ずっと好きな男の子がいるの」

「......へえ。そんで、姉さん好みのその男は?」



*

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宮古みなこ(プロフ) - 黒灰白有無%さん» 返信遅くなってしまい大変申し訳ありません😭キスが精一杯のプラトニックラブを描いているつもりなので綺麗な物語と言って頂いてとても嬉しいです!私もごごりのシーンは懲りました!内容は超考えてるので更新頑張ります!本当にありがとうございます。💦 (9月29日 22時) (レス) id: 3762c357ba (このIDを非表示/違反報告)
黒灰白有無%(プロフ) - 失礼致します題名に惹かれまして1から拝見為せて頂きました!綺麗な物語というイメージが大きいです.ゴー/ゴ/リとの絡みが特に大好き過ぎます!!綺麗で且つ迚も面白かったです!!続きも楽しみに仕手おります無理は為さらないで下さいね.これからも応援しております!! (9月15日 15時) (レス) id: 1ab55170b6 (このIDを非表示/違反報告)
宮古みなこ(プロフ) - 風花さん» ちょうど読み返していたところでした❗️コメントを頂きありがとうございます。現在続きを作成中です!!!待っていて下さって大変感謝しかありません。もう暫くお待ち頂けると嬉しいです!前作に引き続きありがとうございます! (9月4日 23時) (レス) id: 3762c357ba (このIDを非表示/違反報告)
風花(プロフ) - やはりこの作品は面白い!!続きを楽しみにお待ちしております!! (9月4日 12時) (レス) id: 093315c16a (このIDを非表示/違反報告)
kurumi - こちらこそ、返信有り難う御座います。しょうう、と読むのですね。どうも、人名を読むのは不得意なものでして…😅 (8月19日 10時) (レス) id: 36a2ebbf69 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:砂糖やよい x他1人 | 作成日時:2023年7月11日 21時

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