ひとり ページ22
-三美
あれから何日経ったんだろう。
ぼんやりそんなことを考えながら朝食後のお皿を洗っていると、誤ってお皿を落としてしまった。
「…痛っ」
慌てて拾ったせいで破片で指を傷つけてしまい、じわっと泡が赤く染まる。急いで流水で流して戸棚から絆創膏を取り出して応急処置。
地味に痛くてじんじんと傷が疼くけど、無視して皿洗いの続きに手をつける。
「……」
こういう時、必ずあいつが側にいた。
『だっだいじょうぶ三美ちゃん?!』
『包丁でちょっと切っただけだし平気だよ』
『ダメ!菌が入るよ!前もそうやって適当に処置して治り遅かったんだから』
『これくらい本当にだいじょう』
『だめ。ほらこっち来て』
男のくせに繊細で面倒見が良くて、何かと気を使ってくれる。
「お母さんみたいって言ったら誰がだよって怒っちゃってさ…ふふっ」
つい漏れた笑い声に慌てて周りを見渡したけど
台所にいるのは、あたしひとりだけで。
「……なんで無視しちゃうの…」
あの日からチョロ松さんはあたしから遠ざかっていった。
家では避けられて、食事の準備もしなくなって、仕事は外での営業ばかりに行って顔を合わせることがない。
『嫌われた』としか考えられない。
だけど
「……会いたいなぁ…」
あたしの中で彼の存在が大きくて、胸が窮屈で堪らない。
「……キスだって、嬉しかったのに」
もやもやした気持ちのまま身支度を整えて隣のビルの職場へ向かう。受付の人に会釈をしてエレベーターで上の階へ。もう見慣れた廊下を進んで3番目のドアを開く。
がちゃっとドアを開けて部屋へ入れば、ぶわっと風があたしの側を抜け驚いて窓の方を見ると、人影を見つけて心臓がびくんっと跳ねた。
まさか、そんな、やっと来てくれた…?
嬉しさと信じられない不安な気持ちを抑えて「チョロ松さん…?」と声をかければ、ぱっとその人は振り返った。
「お、来た来た。意外とゆっくり出社なのね」
「…おそ松さん」
「うわ、なにそのあからさまな期待外れな声。すいませんねー3番目じゃなくて長男で」
拗ねたように口を尖らせてぎしっと椅子に座ったおそ松さんは、興味なさうなそうな感じでぺらぺらっと書類をめくり、「さーてやるかー」とペンを持ち始めた。
「や、やるってなにを…」
「え、仕事だけど」
「…え?」
.
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唯月 - 永久保存でお願いします(*^_^*) (2019年4月27日 19時) (レス) id: 0fc20caa15 (このIDを非表示/違反報告)
サクラ - その後のお話が読みたい! (2017年8月21日 18時) (レス) id: 82bd22f655 (このIDを非表示/違反報告)
M(プロフ) - かや梅さん» ありがとうございます!何回も最初から読んでくれたなんて本当嬉しいです…!ありがとうございます!番外編は考えていませんが、新作を準備していますので、もうしばらくお待ちください◎長い間読んでいただき、本当にありがとうございます! (2017年6月5日 14時) (レス) id: 23f0e390a2 (このIDを非表示/違反報告)
M(プロフ) - ミサキ@さん» ありがとうございます!そう言ってもらえて凄く嬉しいです!!続きは考えていないのですが、新しい作品を準備中なので、そちらを楽しみに待っいてください(^^)再度読んで頂けるなんて…本当にありがとうございます! (2017年6月5日 14時) (レス) id: 23f0e390a2 (このIDを非表示/違反報告)
M(プロフ) - 椿姫さん» コメントありがとうございます!無事に完結できました。その言葉が本当に嬉しいです。書いた甲斐がありました。長編でしたが、最後まで読んでいただきありがとうございます! (2017年6月5日 14時) (レス) id: 23f0e390a2 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:M | 作成日時:2017年1月7日 14時