知ってるよ【日向】 ページ37
私を睨む、私よりずっと背の高い悠くんに笑いかける。
これでいい筈がないから。ここで終わらせてはいけないから。それは、悠くんが一番わかっている事で。
「何言ってるの、さっさと戻るわよ!」
「なんで戻らなきゃ……いてっ」
反抗するそぶりを見せた悠君を、握る手の力を強める事で大人しくする。
そのまま屋上の扉の前まで来ると、察し合わせたように百鬼君が喋る。それは、青臭いけど、確かに本心からの言葉で。
すべて聞ききった悠くんは、顔をおもむろに上げて、そっと扉を開けた。その顔は満面の笑みを浮かべるでなく、嬉し涙を流すでもなく、警戒感ある様子だった。
すうっと息を吸って、吐いて。悠くんはぽつり、ぽつりと話し出した。
「俺は、不器用で臆病だ」
悠くんは昔から臆病で、けど優しい子だった。
「俺は確かに、誰がどう思ってるのか、誰かがどんな風に変わったのかは分かる」
昔、悠くんの友達が、心に傷を負った。気付いたのは悠くんだけだった。悠くんはその子の傷を治してあげたかった。
「けど、俺は不器用だから。治したり出来ない。きっと逆に傷つけるんだ。善意で行動して、結局なにも出来ない。俺はお前らの欠けた心から逃げた」
それは、切らずにすむ場所にメスを突き立てたような物だった。それは、本来的薬を塗る場所に毒をすりこむような物だった。悠くんの一言は、その傷を癒そうとして、だけど抉ってしまった。
「同じように自分が傷つきたくないから、自分から逃げた」
悠くんは言葉を恐れた。自分の言葉で他人が傷つくのを恐れ、その子が傷を負ったように自分が傷つくのを恐れた。
「ああ、逃げたんだよ。俺は確かに【今】から逃げた」
悠くんの心には、確かに傷はなかったけれど。誰よりも、その心に傷がつくことを恐れていた。その思いは病であり、毒だった。
「俺は臆病だ」
今でこそ普通に話してるけど、中学の時なんか話をすることも希だった。今話しているその声も、よく聞いていると震えていた。
「これから先、確実に。お前らの欠けた心を抉る」
それは確かに逃げだった。その親しい人を心から思う故に逃げた。その行動は、もしかしたら正しいのかもしれないけれど。でも、それでは駄目なのだ。だから――
「……それでも、いいのか?」
――彼は今、過去と決別しようとしている。
親友を助けるのに理由なんかいるかよ【鰓】→←【番外編】仮装選び【蛍士】
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アセロラゼリー(プロフ) - 作りました (2016年10月24日 7時) (レス) id: f53ed707bf (このIDを非表示/違反報告)
アセロラゼリー(プロフ) - 百合桜さん» 解りました (2016年10月24日 7時) (レス) id: f53ed707bf (このIDを非表示/違反報告)
百合桜(プロフ) - 終わりました!話がいっぱいなので続編頼みます(^L^) (2016年10月24日 0時) (レス) id: 29848ed227 (このIDを非表示/違反報告)
アセロラゼリー(プロフ) - 百合桜さん» いってらっしゃいです! (2016年10月23日 23時) (レス) id: f53ed707bf (このIDを非表示/違反報告)
百合桜(プロフ) - 編集してきます (2016年10月23日 22時) (レス) id: 29848ed227 (このIDを非表示/違反報告)
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