01−優しい ページ1
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「はい、それではお薬を持ってきますね」
「ありがとうございます」
「少しこちらで待っていてください」という蟲柱様の言葉通り、立ち上がった彼女を少し目で追いながらその場に待機する。
風邪を引くなんて、珍しいですね。
甲の位になってから初めて、風邪をひいた。
沢山鍛えていた筈だったけれど、今朝の体の怠さと目眩にはどうしようもなくて無意識にため息が出る。
蟲柱様を待っている間、遠巻きに私を見る数人の隊士が何やら話し込んでいて、いけないとは思いながらも少し耳を傾けてしまう。
「ほら、蟲柱様って可愛いよなあ」
「恋人の一人や二人、いるんだろう」
「柱なんて階級じゃあ、恋にうつつ抜かしてる暇無いんじゃねぇの?」
「音柱様は、なんでも3人嫁がいるだとか聞いたぜ」
上司の噂話は、何だか聞いていてむず痒い感じがする。
小さく咳払いをすると、私に気付いて軽く会釈され、彼らはその場を後にした。
鬼殺隊に入った理由は、人によって様々だ。
だけど共通しているのは、皆鬼のいない平和な世界を望んでいること。
そしてここは、とても心地が良い。
家族のいない私の、家族になってくれた人たちが、沢山いるから。
蟲柱様のご帰宅が遅いので、きっと他の患者を見て回ってるんだろうな。
なんて呑気なことを考えていると、廊下から無駄のない足音が聞こえて、そちらへいやる。
「……おォ、お前かァ」
「風柱様! おはようございます」
「あァ、おはよう。…桜田、お前怪我でもしたのか?」
風柱様がまさかいらっしゃるなんて思いもしなかった。
この方が蝶屋敷に来るのは稀なようで、この間蟲柱様も増えていく彼の傷を心配していたのを知ってる。
「風邪をひいてしまって」と苦笑すると、風柱様が「そうか」とこちらへ近づいてくる。
慌てて椅子を譲ろうと立ち上がると、片手で制されてもう一度座り直した。
「熱は?」
「大分下がりました」
「そうかァ」
念を押すように、彼の手が前髪をかき分けて私の額に触れる。
風柱様の顔が近くなって、その瞳は心配に揺れている気がした。
「体調管理はしっかりなァ」
「はい、ご心配おかけします、風柱様」
「あァ」
風柱様が蟲柱様を探しにいくのか、踵を返す。
襖に手をかけた時、「桜田」と私の名前を呼んだ。
「お大事にィ」
「…はい、有難うございます」
ー…彼は、時々あんな風に、甘すぎる顔をする。
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k - あ、はいもう好きです。こんな恋愛したいですわ(?) (6月16日 0時) (レス) @page50 id: 5d2f3eba17 (このIDを非表示/違反報告)
まゆまゆ(プロフ) - ( ☆∀☆)実弥と恋仲になれて、しかも妊娠なんて(*≧∀≦*)幸せ!一推しなのでキュンキュンしました\(^-^)/ 続編とても読みたいです、 (2021年3月15日 0時) (レス) id: 442319c796 (このIDを非表示/違反報告)
ぬれおかき(プロフ) - ひぃぃえぇぇぇ、さねみんかっこよすぎて辛いです天才です大好きです私は何回でも言いますおそらまめさんだいすき… (2021年2月7日 13時) (レス) id: dde5b1dc7f (このIDを非表示/違反報告)
おそらまめ(プロフ) - ミズノキさん» ミズノキ様コメントありがとうございます!うわああ嬉しいです…!全然天才なんかじゃありませんが、自信を持ってこれからも執筆させて頂きます!(笑) (2020年7月29日 23時) (レス) id: 77433e9bba (このIDを非表示/違反報告)
ミズノキ - ナニコレサイコー天才ですねおそらまめさんは天才\(^-^)/ (2020年7月27日 16時) (レス) id: fc17fb6cfe (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:おそらまめ | 作成日時:2019年12月25日 7時