【YOIトリップ】氷の音が、響いていた。【勝生勇利】 (ページ28)

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人、人、人 !!!!

分かってはいたが目の前にすると想像以上の人だかりで、ここはまるで渋谷のスクランブルだったかと錯覚するほどの混乱具合だった。

｢あっ、ちょ、ユリオ!!｣

ズカズカと進んでいくユリオを日本語で呼び止めたところで甲斐なし、思い虚しく数秒の間にカメラの中央になってしまう。

そこに飛び込む勝生勇利。

あぁ、見た光景が広がっている。

心の片隅で、わたしがいないはずの本当の物語が始まっていることを実感した。

わたしにとっての当たり前の光景、彼らにとっての初めての体験。
全て未来を知っているものが、ここにいることなぞ、誰も考えもしない。

時間軸の中で存在否定をされるべきわたしの母のお陰で、今わたしが代わりとなってここへいる。

今まで微妙に理解しきれていなかった部分が、妙に腑に落ちた。

｢何を見ているんだい、A？｣

気が付くと隣にはヴィクトル、周りには慄いてしまうほどの数のカメラ。

｢……は？｣
｢紹介しよう！この前から俺がユウリと一緒にコーチしてる千寿Aだ！｣

一気に焚かれるフラッシュの攻撃に耐えかねて目を瞑る。
これでわたしがお母さんの娘じゃないかみたいに言われたらこのコーチどうするつもりなんだ…隠し子とか言われますよ……。

しかしそれよりもなによりも、ネットが唐突にヴィクトル・ニキフォロフの弟子として現れた女を放っておくこと等考えられない。

炎上の恐怖に追われながら過ごすことになりそうで怖かった。

バレる身元がないのが幸いだ。

｢Hers is a greatest perform what like Rena's it because......｣

隣で聞こえるロシア訛りの英語から一歩ずつ離れようとすると、嫌でもメディア以外、つまり野次馬の姿と口の動きが目に入る。

『なにあの子、ロシア人？』
『でも日本人の名前よね〜？』
『何者？』
『あの子だけずるぅいわたしもヴィクトルに習いたい』

あぁ、かの日と同じ言葉たちが聞こえる。

人と見た目が違うことで投げられる不本意かつ不明瞭不平な声。
あの子に掛けられた言葉が頭蓋骨の中で幾度となくリバーヴして、思い出したくないものを引き摺りあげて来る。

いや、いや、いや。

ひそ、ひそ、ひそ。

憎悪の混じる、
嫉妬の混じる、

その時その場で発せられる全てが私への嘲笑。

誰も肯定してくれない恐怖が全身を包んだ。

気が付けば自然と耳を塞いでいたわたしを、勇利くんがひっぱっていってくれたことだけは覚えていた。