【ヒロアカ】白を愛し、赤と (ページ19)

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69:返事ページ19

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おまえはヒーローにならねばならない。
その言葉は傍からみれば、強要する強い言葉に聞こえるかもしれない。

だがAには人生で初めて父から貰った優しさだと思った。

炎司は自分のために、彼女をヒーローにしたいのかもしれない。
焦凍のために、彼女をヒーローにしたいのかもしれない。

でも、初めてだったのだ。
炎司がAにヒーローの道を示したのは、初めてだったのだ。

廊下を歩く父を追う。
昔のことを思い出した。

嫌がる焦凍の手を引く炎司。
その一歩後ろを顔も上げずについていくA。
あの頃は黙っていることが正解だった。

『……あの時、助けに来てくれてありがとう』

その言葉に炎司は反応しない、言葉を返さない。
だけれどそれでよかった。
昔とは違う、とAは思う。

返事はなくともちゃんと聞いている。
耳を貸してくれなかった子供の頃とは違うことを、感じ取っていた。

『仮免、取れなくてごめんなさい』

次に背中に述べたのは謝罪。
謝罪なのに、Aの表情は決して暗くはなかった。

最初に何故来たのか問うたとき、その件に関して炎司はAを責めなかった。
だからそれについて彼が憤っているわけではないと彼女は知っている。

謝罪を述べたのは、自己満足のようなものだった。
誰も責めないのに、罪悪感があった。
だから言葉にして、それから逃れたかったのだ。

Aがそう思っていると、炎司は気付いているだろう。
そして、炎司が気付いていることをAは知っている。
だからこそ、思い詰めたりしなかった。

よく、夢を見た。
幼い頃の自分が、父と手を繋いで楽しそうに笑っている夢。

子供の自分が無邪気に手を振ってくるから、Aは少し寂しそうに笑って返す。

確かにそれは夢で、現実でそんなことがあったことはない。
だけどそんな過去がなくなっていい。
これからも願ったりしないから。

だからどうか、いつか父が一瞬でも私を見てくれる時がくれば、それだけで。

校門が近づいても、炎司は何も言わなかった。
街灯の少ない校内、暗さも相まってAは少しだけ寂しくなる。

『父さん』

父を呼ぶ。
敷地を出た炎司が少しだけ振り向いた。

『私、前向けるように頑張るから』

ヒーローになること、それに自信が戻ったわけではない。
だけど、覚悟を決めようと思った。

『会いに来てくれてありがとう』

「……ああ」

呟くように紡がれた小さな返事。
Aはそれを、聞き逃さなかった。