【文スト】裏を返せば全て善意 (ページ5)

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『さて、帰るか』

襲撃者を撃退したAさんは手を頭の後ろで組んで言った。
これまた突然だったけど、何となく言いそうだなと思ったもの事実。

「お前らだけで帰れ。俺たちは仕事が」

『あぁ、それ良いよ』

「何だと？」

チャキ、とそれらしい音を立てて刀をしまう。

谷崎さんは不思議そうに僕を見るが、僕も何のことかはわからない。
よく一緒にいるような気がするけど、いつもわからない。

『午後4時、花屋前で待つって依頼書でしょ？』

「……あぁ。そうだが」

『大丈夫だって。今4時だし、何せ国木田さんを指名したのに時間に遅れるとかありえないでしょ？』

「……まさか。はぁ」

彼女を取り巻く3人。
すぐに理解をする。
まあ、依頼書の内容若干アバウトだなとも思ったし。

国木田さんももはや怒る気も起こらないのか、ため息をついた。
谷崎さんもただ苦笑を浮かべるだけだった。

「でもどうして僕と国木田さんを呼んだんですか？」

『適役だったからじゃないかなぁ』

「適役？」

『囮りに』

「囮り……」

頭いい人は駄目、子供は駄目、女性は駄目、と彼女は告げる。
何故敵襲を予測できたかは別として、悟られるわけにはいかなかったから僕にも言わなかったのだろう。

「お前な……個人的な事情に俺を巻き込まな」

『はいはい、ごめんねぇ』

「で、これで何がわかったんだ？」

『何で聞くの？』

「は？」

『私の事情には興味ないんでしょ？』

結局お説教を開始した国木田さんを華麗に躱しながら探偵社への帰路につく。
こんな二人の姿は本当に見飽きたぐらいいつも通りで、Aさんが常に命の危機に晒されていることを忘れてしまいそうになる。

そう、この人は今、ここで死んでしまったっておかしくないのだ。

「どうして突然帰ることにしたんですか？」

『あの二人に手伝って貰えそうだから』

「てことは何かを掴んだ？」

『本当は国木田さんも心臓取られて欲しかった』

縁起でもないことを言うな、と言われるが本気に決まってるでしょ、と彼女は返す。

確かにもう一人社内から被害者が出れば社長も動かなざるを得ないし、そうなればあの二人だって動くかもしれない。

『潤一郎くんは危ない目には遭わせないから安心してねぇ』

「ははは、ありがとうございます」

何を得たのかわからない状況。
本当に大丈夫なのか不安なところもあるが、手伝い以外にできることはなかった。

早く、彼女の心臓が戻ってくると良いのだけど。