【文スト】裏を返せば全て善意 (ページ21)

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夕暮れを過ぎて、もはや夜。

長過ぎた散歩。
帰ったら国木田さんにどやされそうで少し萎縮した。

『私はこれからも探偵社を続ける。敦くんは？』

「僕も、同じですよ」

『そうか、そうだよね。あそこが私たちの居場所だもんね』

空を眺めると、わずかに星を見ることができて、その美しさに見惚れた。
ここ最近は忙しかったから、いつもよりもそう思うのだろう。

Aさんも僕に話しかけているのに上を向いていて、星を眺めているのだと思う。

『そんならひとつだけ、忘れないで』

「何ですか？」

『悪いことをする皆が皆、悪意を持ってというわけではない。裏を返せば善意だってこともある』

今回もね、と彼女は指を一つ立てて言う。

許されないことだった。
でも、同じ立場だったら僕も同じことをしたかもしれない。

『でもね、私はそんな人たちも救いたい。君は？』

「同じです」

『そう思えるなら、絶対に諦めちゃ駄目だよ。誰に助けを乞うたって良い。だから意地でも、一人でも多く救おうね』

言ってることは分かっても、言いたいことがわからない。
それが彼女らしくて、笑った。

「今回は、救えましたか？」

『どうだろう。私には娘さんの身元保証人になるくらいしかできなかったから』

「それなら、十分ですよ」

人を救うのは、容易ではない。

だけれど僕は、多くを助けたい。
みんなに幸せに生きてほしい。

『うーん、つまり何が言いたいかって言うとぉ』

今日は珍しく話をまとめようとするから、少し驚いた。

全て救いたいなんて、他の誰かに言ったら馬鹿にされてしまうかもしれない。
だから僕は、彼女が良いと思うのだろう。

『君には私がいる。一人じゃないってことかなぁ』

「あはは！それなら僕も頑張れそうです！」

『はは！そうでしょう！！』

距離を縮める。
ずっと先を歩いている人だと思ったけれど、意外とそうでもないらしい。
三つ上のAさんは随分と年上のような気がしたけれど、それも案外違っていたらしい。

迷いながら生きていく、それはどちらも同じだ。

『入社祝い、私の心臓あげようか？』

「そんな物騒なお祝いいりませんよ」

『敦くんが私を置いて行かないように呪いを込めて！』

「せめて願いって言ってくださいよ！」

この先どんな辛いことがあるかわからない。
でもこの人となら、きっとどこまでもいけるだろう。

ー FIN ー