【文スト】裏を返せば全て善意 (ページ13)

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あの日から二日。
心臓は戻されたが、瀕死だったAさんは与謝野さんの異能力で命を繋いだ。

だが彼女は未だ、医務室で眠ったままだ。
太宰さんが言うには本来は殆ど意味をなさない異能力での身体強化による反動ではないか、ということだった。
それでも命に別状はないなら、安心できる。

『おはよ。何日経った？』

「二日」

『ウソ、寝過ぎたか』

あまりにも。あまりにも普通。
みんながそうだったから、僕がおかしいのかと思った。

Aさんも普通の寝起きみたいだし、ほかの社員も何も気にしていないみたいだし。
質問に答えた国木田さんはもはやパソコンから目を離さないし。

「A、心臓はあるかい？」

『本当だ、心臓が帰ってきた。晶子さん、ありがとぉ』

「特務課になら社長が連絡してくれたよ」

『わかった、ありがとう。行ってきまぁす』

「行ってらっしゃい」

体調大丈夫ですか、とか、良かったですね、とか。
かけたい言葉はあったのだけど、驚くべき流れだったからぽかんとしてしまった。

「寝ぼけてたね、A」

「まぁ、二日も寝てましたからね」

「でもどこか行きましたよ？」

「特務課じゃない？」

彼女は決して、働き者ではない。
働かなくていいなら率先してはやらないし、手を抜けるならそこに全力を注ぐタイプだ。

だから起きてすぐ、ましてや死にかけてからすぐに仕事の話をしに行ったことに驚いた。
まだ寝ていたって誰も責めないだろう。

「どうしてAさんはあんなに働くんですか？」

特務課の依頼に対して、とは付け足さなかった。
足したら足したで失礼だと思ったし、何せ言わずとも伝わっていると思ったから。

「無理やり引き抜いたからだよ」

「引き抜いた？」

「そう、特務課から」

僕の質問に、乱歩さんはあっさりと答える。

彼女が探偵社が創立されてから早いうちに社員になったことは知っていた。
でもまさか特務課から引き抜いたなんて。

「十年前にね、Aがまだ十一の頃だよ」

「そんなに、前なんですか」

「そう。でもあっちも手放したくなかったから、社長が粘ってこうなった」

欲しかった理由、手放したくなかった理由。
それについて乱歩さんは語らなかった。

社長が粘った末、探偵社に所属しながら特務課からの依頼を受ける形に落ち着いたのだろう。

「本人に聞いたほうが早いよ」

「そう、ですね」

語らないのはもしかすると、面倒くさくなったからかもしれない。