【文スト】裏を返せば全て善意 (ページ11)

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日が当たる。
逃走ルートを抜けた先、意外なほどにあっさりと、男の後ろ姿を捕らえられた。

『止まれ。これ以上逃げるなら斬るぞ』

「……そんな折れた刀でか？」

『これでもお前の首くらい飛ばせるよ』

振り返った男は、優しそうな人だった。
本当に人の中身を奪っているかを疑うくらいに。

いつもなら、Aさんは強引に距離を詰めただろう。
だが今回は落ち着いて、そうはしなかった。

「お前も動くなよ、司馬A。命が惜しければ」

『わかってるよ、そんなこと』

「……嘘だ、何で」

見せられたそれ。
赤く血の通った、まだ生きている心臓。

たったひとつ、それだけだった。
それなのにそれは、Aさんのものだった。

「予想通り、か。動くなよ、A」

『仕方ないなぁ、本当に。最悪だよ』

「ど、どうするんですか」

動けば刺す、そう言わんばかりに男はナイフを向けていた。

刺されてしまえば、即死。
かと言って逃げられてしまえば、もう追えない。

決断には時間がかかるのに、距離は徐々に離れていく。

「さて、こうなれば私の提案した通りだが、どうするんだい？」

『今だから言うけどね、私は太宰さんを一度たりとも疑ったことはないよ』

「ふふ、知ってるよ」

刀から手を離した彼女は、戦うことを諦めたようだった。

ここにきてようやく思い出す。
乱歩さんは、僕が軸だと言っていた。

『敦くん、奴の異能が発動するまでには触れられてから5秒程かかる。これは体験済みだから間違いない』

「はい」

『こうなれば無傷は無理だ。だから心配せずに、私を信じて。私も敦くんを信じるよ』

彼女の異能はそう、物体を強化する力。
生物はその対象に向いていない。

ただ、向いていないだけで、対象外ではない。
多少なりともそのあり方を強化される。

とにかく、速さで決着をつけなければならない。
だからきっと、ここに立っているのが僕なのだ。

役に立ちたいと思った。
いつも助けてくれる彼女を助けたいと思った。

Aさんは左胸を強く押さえた。
覚悟をした合図だった。
だから僕も、覚悟を決めた。

僕が飛び出すと、ナイフが振り下ろされた。
動きを止めることは出来なかった。
彼女はこうなると気づいて、僕に託してくれたのだ。
負けるわけには、いかなかった。

「A！」

『わかってる！』

息を吸う音が聞こえた。
そしてその声は、何よりも力強かった。

『異能力、「風神の門」!』

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