【文スト】裏を返せば全て善意 (ページ1)

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『ねぇもう無理！』

「五月蝿い」

ドカン、と凄い勢いで探偵社の扉を開けて崩れ落ちる人が一人。
乱歩さんに怒られたその人は、子供っぽくも大人っぽくもなく、おいおいとふざけたように泣いた。

彼女の名前は司馬A。
能力名は『風神の門』。
何でも、物体強化の力だとかなんとか。

『だって乱歩さん。刀折られた……』

「刀？あぁ、なんとか丸ね」

『大鬼丸！！』

事あるごとに21歳には見えない駄々のこねかたをする彼女。
駄々……なのかはわからないけど。

刀、と言っても、彼女の刀は人を斬ることは絶対にない。
肌身離さず持ち歩かれているそれは、刀の形はしているが刃の全てが同じ厚さだった。
故に、肉を切り裂くことはなく、簡単に言うなら刀の形をした鉄の塊だろう。

尤も、彼女が異能力を使いさえすれば、その鉄は岩をも切り裂くのだけれど。

「Aがしくじるなんて珍し……くもないけど久々なんじゃない？」

『だって特務課は最近暴れてるマニアを捕まえろってしか言わなかったから』

「マニアねぇ。それで一人だって勘違いしたわけか」

『そう』

彼女は探偵社が創立されて早期に社員になったらしい。
昔のことは知らないけど、探偵社と特務課で何らかの取引があって、彼女は時折特務課からの依頼をこなしている。

太宰さんは言い直したが、彼女がその依頼を失敗することは珍しい。
それに、少しだけどかすり傷をつけてくるなんて。

『大鬼丸ぅ……』

「そんな何処ぞの刀を模した名前つけたのが悪いんじゃないか？」

「それよりその頬の傷、消毒してやるからおいで」

未だ膝をついて泣く自分よりも年上の女性に、苦笑を零す。
周りも呆れてはいない、慣れているから。

ああ、黙っていれば綺麗な人なのに。

「ま、まあAさん。とりあえず消毒してもらいましょ？ね？」

『そうする』

僕の手を取って立ち上がった彼女は与謝野さんのもとへ向かった。

その姿はいつもと何ら変わりもなく、どこもおかしくなんてなかった。
ただメソメソと泣いているのが21歳に見えないことだけが残念だった。

「……A」

『ん？』

「お前……何か取られた……？」

単純に珍しい、乱歩さんの疑問詞。
それだけでみんなが不安になった。

視線はゆっくりと、一人に向けられる。

『心臓、取られた』

何故それを、先に言わない。

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名前、能力名は司馬遼太郎さんからお借りします。