02 役者の立ち位置 ページ5
1
「今朝のニュースではあの件に関する報道はされていなかったようですね」
液晶画面に指を滑らせるA。青白い光に照らされている黒いスクリーンにはネットニュースの速報が写し出されている。
「……警察は組織の存在すら世間に公表していないということですか」
「不満か」
「いえ、賢明な判断だと思いますよ。ただ……レアケース__貴方がたの言う組織とやらには優秀な彼らも随分と手を妬いているようですね」
ふふ、と笑みを浮かべたところでスマートフォンがうたた寝を始める。彼女と対峙する男、赤井秀一の視線がちらりとそれに向けられるが、画面が再び光を放つことはなかった。
2
「貴女の手を借りなければ成功しない駆け引きをしている、といったら、僕の作戦に加担してくれますか」
彼女は笑いさえもしなかったが、非難の言葉を口に出すこともなかった。
Aとコナンの間にあるのは、一つの沈黙。
彼は何も言わない彼女からの返事をただ、じっと待った。
「必要なのは手ではなく、口でしょう?」
沈黙の終わりにあったのは、彼女の破顔だった。
「にらめっこは得意じゃないんです、私」
「口を閉じるのは?」
「愚問ですねえ」
彼女は肩を揺らした。手は口許に当てられている。
「貴方が危ない水溜まりに足を突っ込んでいるというのには察しが付きます」
「うん、まあ軽く」少年は口許に笑みを浮かべて目を瞑る。「機密事項ってところだよ」
真摯な瞳を彼女に向けるその顔は、新聞でよく見かけた探偵のそれと瓜二つであった。
3
「うーん、例の構成員に呆気なく自決されて水無伶奈さんの居場所が知れてしまったと聞く限り、芋づる式に解決できる可能性は極めて低そうですね」
「やっぱり移動するのが一番安全な手だと思うのだけど……」
スマートフォンを弄ぶ彼女を前にジョディは呟く。
「裏目に出ますねえ」
「え?」
「場所を変えたところで見つかるのも時間の問題__見つかれば今のような状況に至るのも目に見えています」
場所を変え、そしてまた場所を変える__ループし続けることも有りうる。そうなると、当然今より多くの患者を危険に晒すということにも繋がる。
「被害は最小に抑えたいというのが本音でしょう? それに」
ここには彼らに太刀打ちできる人材が大勢揃っています。
「時に退くことも大切ですが、今はその時ではありませんよ」
彼女はジョディと、シャーロック・ホームズ__探偵役を引き受けた少年__に、ウィンクを飛ばした。
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