第九十六刀 ： 悪業 ページ17
あまりにも美しく
あまりにも残酷。
その紅は、魔性の神の瞳にも見えた。
「・・本丸、が、」
『・・やはり、逃がしてくれる気はないようです・・』
見慣れない紅に覆われた本丸の向こう。
―――離れは、恐らくもう間に合わない。
「・・びしゅう、」
ふらり、とそれでもそちらへ向かい始めた身体を、
ぐっと左文字が引き寄せる。
「・・主。
備州殿も一人ではありません。
逃げのびていると、信じましょう」
「・・・う、」
うん、と、答える代りに頷いた。
「間に合ったか」
背後から、安堵したような、
しかしひやりとした空気でもって声がする。
そして同時に、本丸を覆う様にならびたつ、黒い、黒い集団。
「見つけたぞ・・筑前国の三日月宗近！」
「・・・？」
影の中で、すっと正面に現れた、
"男"であるとはわかる、ひときわ目立った黒い影。
男の目は一心に、三日月を見据えていた。
「・・おや、見つかってしまったな」
あまりにも呑気な三日月の言葉に、男は激怒する。
「キサマぁぁぁああ！ よくも、俺の仲間をぉお・・！」
「はっはっは、歴史を改変するために人々に危害をくわえ、
人の命を奪い尽くすお主がそれを口にするか。
いや、愉快なことだのう」
――これは、なんだ。
今、目の前にいるこの男は、何を言っているのだろう。
「のう、鵜丸兼定よ？」
「―――え？」
うまるかねさだ？
『まさか！』
こんのすけが声を上げた直後だった。
三日月に飛びかかる、
『鵜丸兼定』という男。――男？
あの演練の日、耳にした彼の言葉を思い出す。
そう、鵜丸兼定は付喪神だ。
「・・三日月さん？」
震える声でも、彼は聞き取った。
「どうした主？」
鵜丸兼定の刃を受けて尚、
三日月はその紅い瞳をくゆらせて微笑む。
「・・・まさか、昨日、あなたがいなかったのは、」
――三日月は微笑んだ。
どうしてだか、どこか、切なげに。
「あんた主のくせに、自分の刀剣の管理も出来ないのか！
こりゃ笑えるな？ お前のために！
お前のような主のために！ この男は！
俺の仲間を折っては、食らったんだよ！ 」
「 え――、 」
血のように朱い光が脳裏から消えない。
溺れるように食らい続けた鉛のような彼らの味を
俺は永遠に忘れない。
―――俺を振り払った主の弱い指先も、決して忘れない。
繰り返し繰り返し味わった。
愚かな思考に蝕まれる自分自身が
どこまでも愚かしくて笑った。
もう、この瞳に夜空はうつらなかった。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 40人がお気に入り
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
遊藍 - 蒼さん» ありがとうございます。燭台切さんの執念、だなんて素敵ですね(笑)・・青江さんと左文字さんにも注目して頂いて・・こんな遊藍めの作品をご閲覧頂き、ありがとうございます！ (2015年11月8日 0時) (
レス) id: 1efa798365 (このIDを非表示/違反報告)
蒼(プロフ) - 今までヤンデレって好きじゃなかったんですよね。自分中心な上に重すぎるというか…しかしこの三日月は違和感ないです、笑。刀剣乱舞の画像で目が離せなくなる美貌を持つ彼が抱える闇に納得するくらいです。燭台切の執念、左文字と青江も良かったです。 (2015年11月5日 22時) (レス) id: 98f743b05f (このIDを非表示/違反報告)
遊藍 - 三条朔月さん» そうです、「つよぉい！」を強調する黒い兼定さん。カカカ殿は、一度の出陣で2〜3振ひろってくる、なんて、よくあります・・うう・・・鍛刀で出せる刀剣で、残っているのは、狐だけなのになぁ・・やっぱり第二部隊で、5−3いってもらえるように頑張りますか・・ね・・・ (2015年9月26日 0時) (レス) id: 1efa798365 (このIDを非表示/違反報告)
三条朔月(プロフ) - かっこよくて強いか (2015年9月24日 23時) (レス) id: 04413a2bd7 (このIDを非表示/違反報告)
遊藍 - 大変・・！(そしてその気持ちもわかる・・)遊藍の場合、五面は基本カカカ殿です(涙)たまにだぬぽんか和泉守さん・・ (2015年9月24日 22時) (レス) id: 1efa798365 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：遊藍 | 作成日時：2015年8月10日 1時
