第四十二桂 ： 上弦の月 ページ45
―――声を掛けた時、そこにもう気配はなかった。
しかもご丁寧なことに、彼は結界まで張っていた。
呆れてしまった。
そして同時に疑問も増えた。
そこまでの価値が、"彼女"にあるということなのか。
「しかしまた、幼稚なことを・・」
「・・主・・」
それでも気に掛ける左文字に、大丈夫だと微笑んだ。
「とにかく、今は小狐丸の手入れを優先しよう」
さっと扉からはなれ、改めて小狐丸の刀身に目を向ける。
手入れを再開すれば、罅(ひび)は、少しずつ消えていく。
「・・っ、」
刀身そのものが美しい銀を取り戻した時。
小狐丸がぴくり、動いた。
鞘も、柄も、鍔も。すべての手入れを済ませていく。
小狐丸が完全に目を覚まし起き上がった時、
すべての手入れは終わっていた。
「・・申し訳、ございませぬ・・」
意識を取り戻した小狐丸がまず口にしたのは、それだった。
それは恐らく、お守りを破壊してしまったことへの謝罪。
「・・大丈夫、またつくれるから」
そのためには部屋へ戻らなくてはいけないが、
――さて、どうしたものかと考える。
天窓から覗く空は、既に暗く。
まだ昼間だったはずの世界は、恐らく夜中だろう。
―――むしろ、夜明けが近いかもしれない。
僅かに開けられた天窓からは、外界の香りと、
穏やかな風にのった虫の声がきこえていた。
「まいったな」
城下におりることが出来なかった。
それはつまり食事を買い損ねたことを意味し、頭を抱えた。
「研修生よ、ここにおるのだな？」
それはあまりに、出来過ぎた偶然だろう。
「・・・おい、まさか、」
やけに明るい声だった。
それがやけに、恐ろしく。
「やれ、あの男も仕方がないな」
がたんと錠前の外される音が響く。
同時に、ぱつん、と何かの破裂したようなおと。
恐らく、一期の張った結界を、三日月がやぶった音。
「・・聞き出すのは大変だったぞ？
あ奴も口がかたいのでな、閉じ込めたとは一向に認めぬ」
扉が開かれる。
「はっはっは。このような、わかりきっている事実、
隠すだけ無駄であるというのになぁ」
暗い中、蒼くともった光がさしこむ。
―――三日月の瞳は、普段の色だった。
「さぁ研修生、部屋に戻ろうな？
小狐丸の手入れなど・・疲れているであろうに、」
愛おしむようにこちらへと向き、細められた瞳にぞっとした。
「・・一期、は、」
言わんとせぬことを、三日月は理解している。
「・・なに、折れてはおらぬよ」
――だからこそ、笑っていた。
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遊藍 - うろちょろしていたら二桁台にランクインしていたことに気が付きました・・！いつもお世話になっております。みなさま、本当にありがとうございます！ (2015年12月7日 7時) (
レス) id: 1efa798365 (このIDを非表示/違反報告)
遊藍 - 闇夜さん» 待ち遠しく、だなんて・・！ありがとうございます。ご満足頂けるような作品に少しでも近づけるよう努力しますね！ありがとうございます！ (2015年11月21日 5時) (レス) id: 1efa798365 (このIDを非表示/違反報告)
闇夜(プロフ) - いつもこの作品の更新を待ちどうしく思っています！これからも頑張ってください！ (2015年11月21日 1時) (レス) id: 728ca8e5ec (このIDを非表示/違反報告)
遊藍 - 蒼さん» 嬉しいお言葉、ありがとうございます。これからも皆様に気に入っていただけますよう、最善を尽くします。こんな遊藍めの作品ですが、よろしければこれからも、どうぞよろしくお願いします。ありがとうございます！ (2015年10月29日 0時) (レス) id: 1efa798365 (このIDを非表示/違反報告)
蒼(プロフ) - 文章がとても読みやすいうえに、その場の雰囲気や表情も想像できるような作風にすごく惹き込まれました！三日月のラスボス感と主人公の立ち回りを楽しみにしています。 (2015年10月28日 9時) (レス) id: 93399226f0 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：遊藍 | 作成日時：2015年9月25日 22時
