第三十七桂 ： うで ページ40
朝目を覚ました時
ひどく忌々しい気配を障子の向こうに感じた。
この部屋は自分と、左文字と、
――小狐丸によって、強く、幾重にも結界が張られていた。
そんな結界さえも打ち砕かんばかりに張りつめ、押し寄せてくる悪意。
――――開いた障子の向こうには、燭台切光忠がいた。
「・・・何故、あなたがここに、」
語尾を跳ね上げ疑問として放つ前に、
燭台切は桜夜の右手をひっ掴んだ。
「！？ 主！」
まっさきに左文字が反応するが、
「・・まってくれ！」
聞き慣れた己の主の声に、身体が跳ねる。
「・・・」
手首がうっ血するほどだった。
しかしそれよりも、燭台切の表情は、酷かった。
「・・・どうして、くれるんだ、・・！」
「・・え、？」
絞り出すような一言の後、
燭台切は張りつめた糸をきったように、駆け出した。
「っわ！」
桜夜の手首を掴んだまま
彼は駆けだしたのだ。
―――どこへ、向かっているのか。
思考がおちついた途端、ぞわりと背筋にはしる何かに気付く。
―――憎悪だった。
感じたことのない憎悪が、負の感情が。追い立てるように迫る。
「・・君のせいで・・！」
それは目の前にいる彼からではない。
――わからないけれど、ただ、
燭台切の足が広間を過ぎて、厨で止まったことはわかった。
「 君の、せいだっ!!! 」
どん、と、突き飛ばされた。
放り込まれた厨には、
「・・うそ、だろ、」
あの日の姿のまま座り込む三日月がいた。
「・・・・・ か？」
「・・・え？」
聞き取ることが不可能に近い程の声だった。
――――嫌っておるのか？
赤黒い瞳を携えて
すがるようにこの身へ倒れ込むと
三日月宗近は動かなくなった。
「・・・ッ」
気絶している。確実に。
それでも、背にまわした指先はかたくなに桜夜の服を手放さなかった。
「・・何度も、何度も彼女が手入れをしようとしたのに！
三日月は一度としてその手をとらなかったんだ！！」
「・・な、ん、」
「そんなこと僕だって知りたいよ！
あんなに、あんなに美しかったのに！
彼は！ここで誰よりも特別なのに!!!!」
―――あぁ、
すべての行動理念に、納得した。
三日月宗近の、あわれなほどの生き方に。
「・・これから先、彼の手入れはすべて、君がやって」
「・・・！」
「三日月は、もう君以外の手を受け付けなくなってしまったんだから！」
必死なまでにすがりつくその両腕。
――――俺は頷く以外の選択肢を見出せなかった。
第三十八桂 ： それは悪夢か、現実か。→←第三十六桂 ： いたみ
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遊藍 - うろちょろしていたら二桁台にランクインしていたことに気が付きました・・！いつもお世話になっております。みなさま、本当にありがとうございます！ (2015年12月7日 7時) (
レス) id: 1efa798365 (このIDを非表示/違反報告)
遊藍 - 闇夜さん» 待ち遠しく、だなんて・・！ありがとうございます。ご満足頂けるような作品に少しでも近づけるよう努力しますね！ありがとうございます！ (2015年11月21日 5時) (レス) id: 1efa798365 (このIDを非表示/違反報告)
闇夜(プロフ) - いつもこの作品の更新を待ちどうしく思っています！これからも頑張ってください！ (2015年11月21日 1時) (レス) id: 728ca8e5ec (このIDを非表示/違反報告)
遊藍 - 蒼さん» 嬉しいお言葉、ありがとうございます。これからも皆様に気に入っていただけますよう、最善を尽くします。こんな遊藍めの作品ですが、よろしければこれからも、どうぞよろしくお願いします。ありがとうございます！ (2015年10月29日 0時) (レス) id: 1efa798365 (このIDを非表示/違反報告)
蒼(プロフ) - 文章がとても読みやすいうえに、その場の雰囲気や表情も想像できるような作風にすごく惹き込まれました！三日月のラスボス感と主人公の立ち回りを楽しみにしています。 (2015年10月28日 9時) (レス) id: 93399226f0 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：遊藍 | 作成日時：2015年9月25日 22時
