第三十六桂 ： いたみ ページ39
きっかけは恐らく大したことじゃない。
彼女も人間で、ましてや女。
見目麗しい男たちに愛されて、嫌な思いなどするはずがない。
―――その上もっとも美しいとさえ言われるあの男にも、好意的にされていたのなら。
「勘違いかもしれないし、事実問題なのかもしれないが・・
彼女が三日月の色香に浮かされて、惑わされでもしたんだろう。
初めてその身を三日月に預けた日、その瞬間、
あの神気を全身に取り込んだりしたら、――・・」
背筋がぞっとする。
思い出される寒気と、
同時に熱にうなされている間に感じた震え。
「俺の身体は言うまでもないが、
"与えられる快楽"には慣れてない。
抵抗する俺自身の神気と、支配せんとするあの男の神気、
流されたのはあれだけ僅かだったのに、俺はあっけなく倒れた」
―――吐き気がする。
自身の神気が極上であることは理解していたようだが、
それがどういった類のものか、あの三日月宗近は知らない。
「自覚がないのに、他を支配する事だけを考える、
恐ろしい衝動ですね・・」
「・・あの男、・・」
冷気のような視線で呟く左文字と
くっと下唇を噛む小狐丸。
「小狐丸？」
「・・いえ、審神者さま。
私の気のせいやもしれませぬ。
しかし、あの男、もしや知った上で、
動にうつしておるやも、しれませぬゆえ、」
お気を付けて、と小狐丸が不安げに眉を寄せた。
その小狐丸にああ、と回答を寄越し、
つい先ほどまで湯気たっていた器を見遣った。
(・・確かに、)
思想のどこかで、理解はしているかもしれないな・・
＊＊＊
まるで投げ出されたように置かれた器があった。
じわりと嗅ぎとれたのは己の神気のみで、
それがどういうことなのかはすぐに理解した。
「・・・・そうか、粥は、嫌いであったか」
(器にすら触れたくも、ないほどにか)
厨からのぞく己の姿は恐らく滑稽であろう。
胸の奥。
その深奥で突き刺さるこの痛みがなんなのか、わからない。
「・・いたい、」
器を引きずり落とした。
陶器であるはずのそれがまるで鉛の塊のように重かった。
「いたい、・・・のう、研修生、」
掴んだ指先は震えていた。溢した声はかすれていた。
「これは、なんだ、」
話をしたいのに
顔を見たいのに
自分は、あの存在を感じることさえも、許さぬか。
「いたむのだ、ひどく、いたい、」
―――たすけて、くれまいか
答が与えられるはずなどない問い掛けに
三日月はなおも縋り付いた。
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遊藍 - うろちょろしていたら二桁台にランクインしていたことに気が付きました・・！いつもお世話になっております。みなさま、本当にありがとうございます！ (2015年12月7日 7時) (
レス) id: 1efa798365 (このIDを非表示/違反報告)
遊藍 - 闇夜さん» 待ち遠しく、だなんて・・！ありがとうございます。ご満足頂けるような作品に少しでも近づけるよう努力しますね！ありがとうございます！ (2015年11月21日 5時) (レス) id: 1efa798365 (このIDを非表示/違反報告)
闇夜(プロフ) - いつもこの作品の更新を待ちどうしく思っています！これからも頑張ってください！ (2015年11月21日 1時) (レス) id: 728ca8e5ec (このIDを非表示/違反報告)
遊藍 - 蒼さん» 嬉しいお言葉、ありがとうございます。これからも皆様に気に入っていただけますよう、最善を尽くします。こんな遊藍めの作品ですが、よろしければこれからも、どうぞよろしくお願いします。ありがとうございます！ (2015年10月29日 0時) (レス) id: 1efa798365 (このIDを非表示/違反報告)
蒼(プロフ) - 文章がとても読みやすいうえに、その場の雰囲気や表情も想像できるような作風にすごく惹き込まれました！三日月のラスボス感と主人公の立ち回りを楽しみにしています。 (2015年10月28日 9時) (レス) id: 93399226f0 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：遊藍 | 作成日時：2015年9月25日 22時
