第三十四桂 ： 三条 ページ37
――――自分は、自分たちは、最低限のことだけ理解していた。
同じ三条であるからと、己にそれを教えたのが、三日月だった。
思えば、その時点で既に、彼は彼女の近侍であって。
彼女から、それを聞いていたのかもしれない。
―――これが私の従うべき主か。私は理解が早い方だと思う。
しかしこれだけは知らなかった。
見たこともないし、誰かが、「そう」であると、聞いた覚えもない。
しかし知識としては、確かにあったのだ。
それはきっと、
この三条の最高傑作、
そして天下五剣でもっとも美しい、この三日月宗近であっても。
「のう、どうすればいいのだ、石切の、教えてくれぬか。
あ奴の顔を、顔を見たいのだ、話がしたい。
あの愚かな近侍の者たちなど追い出して、
俺と、共に話をしてほしいのに、
俺だけがいれば、皆よかったのではないのか？」
「・・・」
―――それは
考えるまでもなく。
「のう、それなのに、何故あ奴の傍には、未だにあの二振りが、いる？」
「三日月・・」
「俺だけで、いいのにっ・・」
くしゃり、三日月はあまりに痛々しい指先、
あまりにも悲痛な面持ちで、己の前髪をかきあげた。
「・・三日月・・君は、そうか・・・君は、――」
己が知るのは知識だけで、よかったのに。
「・・君は、あの研修生を愛している、・・」
「・・・ ・・・な、に？」
この男のそれが、「恋慕」なのだとそんなこと、知りたくなかったのに。
「・・君に、今宿っているその感情は、人で言えば恋慕だよ。
君は、君はあの少年に、―――恋を、している」
言ってから後悔した。
酷く酷く、それはあまりにも、残酷ではないか。
「・・恋？」
「顔を見たい、話をしたい、
傍にいる者が邪魔になる・・
君が話したことは、すべてそれが原因だ」
なんとひどい。
「君は・・決してかなうはずのない恋をしている。
君に出来ることは、その願いを押しころすことだけだ」
すべてすべて、あの研修生のせいだ。
「・・君が抱くそれが執着になる前に、諦めなくては、――」
君は、この本丸をつぶしてしまう。
たったひとりの、あんな愚かな人間などのために。
「君は言っていたろう。
研修生など、皆悪魔だ。
自分で言っていたじゃないか。
『研修生』など、信じてはいけない・・・！」
顔を上げていた三日月が視線をおとす。
「・・そうか」
石切丸はその言葉に安堵した。
「・・・これが、恋慕か」
三日月は石切丸の言葉を、理解したとは言っていないのに。
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遊藍 - うろちょろしていたら二桁台にランクインしていたことに気が付きました・・！いつもお世話になっております。みなさま、本当にありがとうございます！ (2015年12月7日 7時) (
レス) id: 1efa798365 (このIDを非表示/違反報告)
遊藍 - 闇夜さん» 待ち遠しく、だなんて・・！ありがとうございます。ご満足頂けるような作品に少しでも近づけるよう努力しますね！ありがとうございます！ (2015年11月21日 5時) (レス) id: 1efa798365 (このIDを非表示/違反報告)
闇夜(プロフ) - いつもこの作品の更新を待ちどうしく思っています！これからも頑張ってください！ (2015年11月21日 1時) (レス) id: 728ca8e5ec (このIDを非表示/違反報告)
遊藍 - 蒼さん» 嬉しいお言葉、ありがとうございます。これからも皆様に気に入っていただけますよう、最善を尽くします。こんな遊藍めの作品ですが、よろしければこれからも、どうぞよろしくお願いします。ありがとうございます！ (2015年10月29日 0時) (レス) id: 1efa798365 (このIDを非表示/違反報告)
蒼(プロフ) - 文章がとても読みやすいうえに、その場の雰囲気や表情も想像できるような作風にすごく惹き込まれました！三日月のラスボス感と主人公の立ち回りを楽しみにしています。 (2015年10月28日 9時) (レス) id: 93399226f0 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：遊藍 | 作成日時：2015年9月25日 22時
