第二十八桂 ： 忘却 ページ31
―――気持ちが悪い。
じとり、まとわりつくこの熱が。
「・・ん、三日月、」
――なんだ？
ここにいるこの人間は、・・
「審神者、」
そうだ、審神者だったな。
審神者か。
俺の美しさを褒め称え、すがるようにほしがる、存在。
そういえば、俺があの頃求めていたのは、
果たして、なんであったのだろう？
「・・はて、忘れてしまったなぁ・・」
熱から、逃れるように褥を離れた。
部屋を後にし廊下へ出る。
―――あぁ、そういえば。
「・・研修生、あの研修生の部屋は、どこだったか・・」
廊下に出て、左右を見渡す。
あの少年の部屋への道を、俺は知らない。
―――小狐丸と食べるから。
研修生は、言っていた。
共に、共に食べるというのなら、言うのなら、
あの小狐は、研修生の部屋への道を、知っている？
「・・あなや、」
なんということだろう。
それは俺でなくてはいけないのだ。
そのような役目は、誰よりも美しく誰と比べるでもなく、
その立場は、誰でもなく特別である俺でなくては。
(嗚呼、)
早く、早く向かわねば。
早く行かねば、とられてしまう。
あ奴はどこだろう。
―――三日月は歩き出す。
覚束ない足取りで、わかるはずのない道を進むために。
＊＊
風が、吹いていた。
ふらふらと、見えない足元を進む。
――風が、吹いている。
なればここは、中庭だろうか。
そういえば研修生の部屋は、離れのように、広間から遠かった。
もしや、この近くなのだろうか。
虫の声もないその道で
三日月は足元のぬかるみにさえ気付かなかった。
「・・あなや、」
つめたく冷え冷えとしたものが、全身をつつむ。
ざぶん。
―――池の水だった。
「・・なんと、困ったな」
頭をのぞき、首から下はずぶ濡れだった。
三日月は幾度か首を傾げた。
「・・・はて、」
わからなかった。
自分が何をするべきか。
「・・こんな時、俺はどうすればいいのか、・・」
―――だって、いつだって。
誰かが俺を助けたから。
何かあっても誰かが必ず、慌てて俺に寄りそった。
だから、何も、俺は、
――どうすればいいのか、わからなかった。
「・・・・？」
わからないまま。
這い出て離れの方へと向かった。
＊＊＊
冷え冷えとする。
寒々しい空気に、目を覚ました。
「・・まいったな」
布団からでて、食堂へと向かう。
何か、温かいものでも、つくろうかと。
左文字と共にこの部屋で眠る小狐丸は、
とても穏やかな表情だった。
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遊藍 - うろちょろしていたら二桁台にランクインしていたことに気が付きました・・！いつもお世話になっております。みなさま、本当にありがとうございます！ (2015年12月7日 7時) (
レス) id: 1efa798365 (このIDを非表示/違反報告)
遊藍 - 闇夜さん» 待ち遠しく、だなんて・・！ありがとうございます。ご満足頂けるような作品に少しでも近づけるよう努力しますね！ありがとうございます！ (2015年11月21日 5時) (レス) id: 1efa798365 (このIDを非表示/違反報告)
闇夜(プロフ) - いつもこの作品の更新を待ちどうしく思っています！これからも頑張ってください！ (2015年11月21日 1時) (レス) id: 728ca8e5ec (このIDを非表示/違反報告)
遊藍 - 蒼さん» 嬉しいお言葉、ありがとうございます。これからも皆様に気に入っていただけますよう、最善を尽くします。こんな遊藍めの作品ですが、よろしければこれからも、どうぞよろしくお願いします。ありがとうございます！ (2015年10月29日 0時) (レス) id: 1efa798365 (このIDを非表示/違反報告)
蒼(プロフ) - 文章がとても読みやすいうえに、その場の雰囲気や表情も想像できるような作風にすごく惹き込まれました！三日月のラスボス感と主人公の立ち回りを楽しみにしています。 (2015年10月28日 9時) (レス) id: 93399226f0 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：遊藍 | 作成日時：2015年9月25日 22時
