桃百合黒漆 −モモユリクロウルシ− 潜

第十八桂　：　『備前国の審神者』 ページ21

―――備前国の審神者は
現在のミハナで二人目。
愉快そうに、楽しげに、青江は流暢に話を続ける。

「研修生君、ここにいる彼に限らず、
『三日月宗近』という刀剣男士は、美しいだろう？」
「・・・」

桜夜が答えずとも、青江は話すのをやめない。

「だからね、審神者というのは、
こぞって彼を求めて、鍛刀に資材を費やす。
そして『三日月宗近』が来訪した本丸はね、
彼のその魅力故、審神者が悪人になりやすい。
魅了された審神者は彼を求め、
他の刀剣たちの管理をおろそかにし、
怪我や、その状態を放置してしまうんだ。
人は、自分の構いたいものに、、夢中になりやすいからね」

流れるように語られていく人間の間違い。
何故青江は、こんなにも楽しそうに語れるのだろう。

「もちろん、それはつまり、彼を探す審神者の本丸も、
――そうだね、君たちで言う『ブラック』になりやすい。
『三日月宗近』というあまりにも美しい刀剣を求め、
ひたすらそこへと資材を使い怪我を放置し、
それでも手に入らないから、
無謀な出陣を繰り返させる・・・
彼が訪れても結果はかわらない・・わかるだろう？」

そこで一度話をきる。
青江は桜夜を見つめ、すっと細めた瞳で左文字を見遣る。

「・・君は、いやに欲のない審神者だ。
それとも、『江雪左文字が傍にいること』こそが、
君にとって夢中になれることなのか・・」

――勘のいい男である。

「そして今回のあの女審神者もそうだね。
以前は、短刀を戦に出すこともためらっていたのに・・
―――三日月くんと深く関わり、交わり、刀剣と話すうちに、
彼女はああなっていった。
原因は、僕ら刀剣にもあるというわけだけれど――」

研修生くん、
とやわらかく落ち着いた声だった。
確信があるようで、余裕があるような。

「君は一度壊れたものを新しく手に入れ直した時、
"二度目以降"は以前よりずっと気を付けるだろう？」
「・・まさか、」

ぎょっとした。
――この本丸にいる審神者は、彼女で二人目。
――二度目以降は、以前よりもずっと大切に、

「そうだね。前任の審神者も、三日月が好きで仕方がなかったようだったよ
そして、彼女はある日、―――病に伏せて死んでしまった」
「・・・」

言葉をこぼすことが出来なかった。
――この本丸は、以前の審神者を病で亡くしている。
そうなれば今回の審神者のことは、――とても大切に想うだろう。



「人間という生き物って、
ちやほやされると舞い上がるものだよねぇ・・・」

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