桃百合黒漆 −モモユリクロウルシ− 潜

第十九桂　：　審神者と付喪神 ページ22

一人めの審神者は病に倒れ死んでしまった。
残された刀剣は新たな審神者を大切にし守り続けようとする。

「前任者の彼女も、三日月くんをたいそう気に入っていたね・・
そして今度の審神者もそうだ。―――そして、ここには研修生もよく来ていた」

怪我を放置する審神者。
その頃は、まだこんのすけが監視できていたということか。

「ここへ就任して半年もしたころから、
ミハナはやけに三日月くんに構いだした。
そして同時に案内狐が疑いはじめ、
――研修生が訪れ始めたわけだけれど」
「まさかそれは皆、・・」

小狐丸が割り込み、小さく息をのむ。

「そうだね。もしかするとその彼と同じように、
政府から駆り出されていたのかもしれないね」

お互いに関わり合いのない者同士だ。
桜夜は詳細を知らない。

わかることは、報告書にあった、途中経過のみ。

「そして彼ら"研修生"もまた、魅了されていったようだったよ。
あの、三日月宗近という刀剣の魅力に」

そして彼らもままた、変わることなく彼を求めた。

「人間は希少価値の高いものや、魅力に負ける。
彼らは既に顕現している三日月宗近を求め、
『顕現されている三日月宗近』がほしくて欲しくて、
『三日月宗近が近侍である』というその立場がほしくてたまらなくて、
ミハナのことを陥れ始めた」
「――は、？」
「自分が、この『備前国本丸の主』になり代わりたくて」

―――それはつまり
この本丸の主である彼女を、追いだして、自分が、―――

「・・乗っ取ろうとした、ってこと、・・・？」
「そういうことになるね」

そんな、政府の人間が？
政府から派遣されている、意思のはっきりとした存在が？

「・・政府、というところの人間なら、
いくらでも歪な証拠を導き出せるようだね。
ありもしない事実さえならびたてて、政府に報告し、
彼らは『自分が代わりに本丸をおさめる』といいだしたんだ」

―――そんなにまでして手に入れるほどの価値が、あの刀にあるとでもいうのか？

「――馬鹿な・・刀が顕現しただけの神だぞ・・」

そしてそれはあくまで"神"なのだ。
視界の端でぴくりとも動かない左文字を思う。

彼もまたあくまでも神であり、
言いかえれば、彼もまた神でしかないのだ。

「神じゃないか・・彼らは皆付喪神だ・・！」

人間なんぞに
管理できる存在じゃないんだ。

「俺達は神の力を借りているだけだ。
俺達が、神に力を貸しているわけじゃない・・！」


人間なんぞが
愛していい存在ではない。

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