開闢 ―美しいもの― ページ3
―――俺は月が嫌いでな。
それはあらゆるものが俺を美しいとのたまう時
誰しも必ず告げられる。比較する。
「本当に、三日月のように美しいのね」
それは新たに主となったものが口にした言葉だった。
うとましい月。銀の月。
俺は月など輝かない漆黒のほうが好きなのに。
―――はじめまして
俺が関わるはずのない世界からきた政府直属の審神者です
むしろ審神者かどうかも最近は怪しいけどね
銀の月を従えた漆のような男は笑っていた。
俺の忌み嫌う銀色を傍に並びたてて
「打ちのけ、だっけ?
三日月の形をしてるのは本当なんですね」
まじまじと俺の両の瞳を見つめて男はいった。
「ねぇ、左文字さん、
こういうときって綺麗だっていっておくべきなんだよね?
俺って月が綺麗なのかどうかわからないから、何を言えばいいのかわからなくって、
ねぇ、左文字さんはこれ、綺麗だと思う? 思うなら俺もそう思う」
「・・・そうですね。
綺麗だと、お伝えしておいて損などないのでは?
誰であれ美しいと言われて嫌がるものなど、おりますまい・・」
「あ、だよね! じゃ、
"お月様みたいで綺麗ですね、あなたの三日月さん!" 」
人形のように白銀に問いかけて言葉にするその男は
「ねぇ、左文字さん」
繰り返し繰り返し白銀へと告げながらも
男は一度たりとも俺を見はしなかった。
果てしない空に雲がかかった。
見慣れた漆色の世界にさした白と灰。
混ぜ合わせてみたらそれは黒になるのだろうか。
黒いくらいそらに輝く月が
今日も変わらずうっとうしく白銀に輝く。
―――俺は月が嫌いでな。
あらゆるものが俺と比較する白銀の月が、俺は嫌いなのだ。
俺は月が嫌いなのだ。
白銀の月が俺の傍に俺とともにあるかぎり あらゆるものが俺と比較する。
――――のう、人間よ。
そんなものより、俺の方がずとずっと美しいのではないか?
それは聞くまでもなかろう?
のう、白銀を連れた漆のような人間よ。
そんな月なんぞよりも
俺のほうがずっとずっと、美しいだろう。
―――――のう、月が嫌いな人間よ。
俺は月が嫌いでな。
俺は月のない漆のような漆黒の夜が好きなのだ。
のう、漆のような人間よ。
俺の方が美しいのだ。
そんな醜い銀の月など、放ってしまえ。
俺の方が、ずっと。
( ―――だから、おれをみてくれ )
*
それはきっと
俺の最初で最後の恋だった。
俺はただ、漆のような闇色に恋をしただけだ。
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遊藍 - うろちょろしていたら二桁台にランクインしていたことに気が付きました・・!いつもお世話になっております。みなさま、本当にありがとうございます! (2015年12月7日 7時) (レス) id: 1efa798365 (このIDを非表示/違反報告)
遊藍 - 闇夜さん» 待ち遠しく、だなんて・・!ありがとうございます。ご満足頂けるような作品に少しでも近づけるよう努力しますね!ありがとうございます! (2015年11月21日 5時) (レス) id: 1efa798365 (このIDを非表示/違反報告)
闇夜(プロフ) - いつもこの作品の更新を待ちどうしく思っています!これからも頑張ってください! (2015年11月21日 1時) (レス) id: 728ca8e5ec (このIDを非表示/違反報告)
遊藍 - 蒼さん» 嬉しいお言葉、ありがとうございます。これからも皆様に気に入っていただけますよう、最善を尽くします。こんな遊藍めの作品ですが、よろしければこれからも、どうぞよろしくお願いします。ありがとうございます! (2015年10月29日 0時) (レス) id: 1efa798365 (このIDを非表示/違反報告)
蒼(プロフ) - 文章がとても読みやすいうえに、その場の雰囲気や表情も想像できるような作風にすごく惹き込まれました!三日月のラスボス感と主人公の立ち回りを楽しみにしています。 (2015年10月28日 9時) (レス) id: 93399226f0 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:遊藍 | 作成日時:2015年9月25日 22時